タイトルからして、ちゃらちゃらした恋愛ドラマ~。
勝手にそう思い込み、全く期待せずに試写を観たら、意外や意外、胸が熱くなってしまった(^o^)v
ぼくにとっては拾いモノでした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
巧い。
観終わった後の正直な感想である。
パリという舞台設定も、2人の成り行きも、銀幕から醸し出される雰囲気も。
人気脚本家、北川悦吏子の映画監督3作目は軽やかな、それでいて芳醇な余韻を残す大人のラブ・ロマンスだ。
セーヌ河岸で、観光で日本から来たカメラマンのセン(向井理)と邦人向けフリーペーパーの編集をしているパリ在住のアオイ(中山美穂)が出会う。
淡彩なスケッチ風の映像がその後の揺らめく展開を匂わせる。
そこでまずあり得ない出来事が起きる。
しかし、「邂逅は偶然から」という恋愛映画の鉄則を臆面もなく使い、それがかえって不自然さをそぎ落とした。
物語の軸となるのが2人のさり気ないやり取り。
とりわけ会話が絶妙だ。
キャッチボールのごとくポンポンと言葉を投げ合い、両者の生活環境、過去、心模様を浮き彫りにする。
アオイが携帯でセンをホテルまで導く場面でグッと引き込まれた。
リアルタイムで移動撮影しただけに、臨場感が満点。
離れているのに、接近しつつある象徴的なシーンだった。
彼らは互いに愛の芽生えを感じ始めている。
しかしそれを露骨に出さず、恋人のフリを貫き通す。
繊細で心に傷を負った年上の女性を受け止めるセン。
彼の包容力と優しさが強調される。
まさに〈寄り添う愛〉。
本作にはもう1つ並行して物語が進行する。
センを無理やりパリに連れてきた妹スズメ(桐谷美玲)と画家をめざす恋人カンゴ(綾野剛)の顛末。
こちらは〈押しつける愛〉が描かれ、本筋のドラマを際立たせる。
3日間の話を全てパリ・ロケで作った。
エッフェル塔や凱旋門などの名所を出しすぎた気もするが、パリをかくも洒脱に撮った映画はあまり観たことがない。
靴を眼目にした辺り、女性監督だなと実感した。
1時間55分。
★★★★
☆6日から全国ロードショー
(日本経済新聞2012年10月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)