この映画は、おそらく一生、心に刻まれると思います。
実際に観て、「感じて」ほしいです。
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惹かれ合う男女の熱い吐息に心ががんじがらめになりそうだった。
凄まじい、かつ新鮮な恋愛映画。
スタッフ、キャストの製作にかける魂がビンビン伝わり、冒頭から一気に観させた。
原作は41歳で早逝した注目の作家、佐藤泰志の唯一の長編小説。
高評価を得た「海炭市叙景」(2010年)と同じ函館が舞台だが、本作は寒々しい夏の物語である。
山の採石場で働く達夫(綾野剛)は事故で同僚を亡くし、腑抜け状態になっている。
一方、海辺のバラックで暮らす千夏(池脇千鶴)は1人で家族を支えており、その呪縛から逃れられず、人生を諦観している。
そんな2人が運命的な邂逅を果たす。
パチンコ店で達夫が彼女の弟、拓児(菅田将暉)と知り合ったのがきっかけ。
ヘビースモーカーで、ひたすら喋りまくるこの男の無邪気さが際立つ。
生きる素地が似ているのか、互いにひと目惚れ。
そして千夏の素顔を達夫が知るや、愛が濃縮していく。
それも悲痛な叫び声を伴って。
不倫を清算できない彼女が哀しくてやるせないけれど、それも納得できる。
極めて過酷な状況下、達夫と拓児が共に純粋で不器用な人間ゆえ、千夏のために青臭い行動に打って出る。
それがハードボイルド風で妙にメリハリがあった。
池脇は『ジョゼと虎と魚たち』(03年)で演じた障害者の役どころ以上に体当たりで臨んだ。
綾野も目を充血させ、切羽詰まった感情を表現した。
圧巻の一言。
本気さが伝わってくる迫真の演技を引き出した呉美保監督は容赦なく人間の本性を銀幕にぶつけた。
これが監督3作目。
前作『オカンの嫁入り』(10年)からは考えられないほどドラスティックな演出を貫いた。
愛することは生きること。
その当たり前のことを真正面から見据えた映画だった。
2時間。
★★★★(見逃せない)
☆19日からなんばパークスシネマほかで公開
(日本経済新聞2014年4月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)