武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

1970年代を駆け抜けた2人の天才レーサー~『ラッシュ/プライドと友情』

投稿日:2014年2月8日 更新日:

 

(c)2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLI TOSSELLFILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED

この映画、観させますよ。 

 

迫力ある映像に圧倒されました!

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

F1史上、語り草になっている2人の天才レーサーの物語。

 

ライバル心を燃え盛らせながら、互いに相手をリスペクトする姿に胸が打たれる。

 

臨場感満点の映像が1970年代の息吹を鮮やかに浮き立たせた。

 

ロン・ハワード監督の渾身の一作だ。

 

自由奔放で享楽的な生き方を貫く英国人のジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)。

 

片や禁欲的で綿密なレース展開を信条とするオーストリア人のニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)。

 

全く対照的なキャラクターだけにドラマを作りやすい。

 

70年のF3サーキットで2人が出会った瞬間から対立の構図が芽生え、あとは次第にエスカレート。

 

私生活を絡ませ、76年に繰り広げられたグランプリを軸に熾烈な闘いを活写する。

 

それぞれに「運命の人」と位置づけ、彼らだけを見据える。

 

他のレーサーの存在は皆無。

 

両者の違いをことさら強調するも、その中で実は共通点がいくつもあることを匂わせる。

 

思ったことをズバズバ言いのける自己主張型の人間。勝つことに対する異常なほどの執念。

 

そして極限への飽くなきチャレンジ精神……。

 

敵愾心が高揚するにつれ、心理的な距離感が狭まってくる。

 

ラウダのマシン(車)がクラッシュし、瀕死の重傷を負ってからが顕著になる。

 

その事故に至る伏線が後半に濃縮されるところが本作の妙。

 

レースの場面が圧巻だ。時速300㌔を超えるスピード感をヘルメットに装着した小型カメラで容赦なくぶつけてくる。

 

さらに30台以上のカメラで撮り続けたというから、リアル感が半端ではない。

 

地響きと爆音が脳髄を心地よく刺激する。

 

彼らの接点はレース上だけ。

 

命を張った男のロマン。

 

時代を駆け抜けた勇姿に理屈抜きに惹かれた。

 

2時間3分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆大阪ステーションホテルほかで上映中

 

(日本経済新聞2014年2月7日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。