こういう映画、すごく好きです。
よく出来た時代劇だと思います。
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別にグルメでなくても、料理を描いた映画は何となく気になる。
銀幕の中でどう使われ、いかに映えるか。
それを観るだけでも実に楽しい。
そこに滋味深い家族ドラマや時代背景が絡めば、申し分ない。
本作はまさにそういう作品だった。
江戸時代中期(18世紀)、加賀藩の物語。料理人として主君に仕える武士、彼らは「包丁侍」と呼ばれていた。
その知られざる世界を舞台にしたことで、俄然、興味を引きつけられた。
同藩の由緒ある料理方、舟木家の跡取り、安信(高良健吾)は剣術好きで、料理が大の苦手。
そこに出戻りの娘、春(上戸彩)が嫁いだ。
料理上手な彼女の腕を、有能な父親(西田敏行)に見込まれたからである。
気が強く、姉さん女房の春が何事にも不器用な夫に献身的に尽くす。
2人の包丁勝負が見ものだ。
この内助の功と夫婦の絆が映画のメーンディッシュとなる。
その主菜を盛り付けた皿が加賀騒動といえよう。
藩に激震をもたらした動乱の最中、登場人物がどのように動き、翻弄されたのか、そこが要になっている。
歴史の荒波がこの時代劇に計り知れない重みを与えた。
副菜も豊富だ。
安信の秘められた恋、春が慕う藩主の側室、真如院(夏川結衣)や安信の親友、定之進(柄本佑)の行く末……。
そして朝倉雄三監督の細部にこだわった丁寧な演出が隠し味として生かされている。
伝内と安信親子が著したレシピ本「料理無言抄」を基に再現された郷土料理の数々。
カメラが舐めるようにとらえたその映像に目を見張らされた。
とりわけ新藩主着任祝いの宴で供された饗応料理の淡彩ながらも、豪勢な膳は圧巻の一言。
テレビドラマ「半沢直樹」で良妻に扮した上戸が、それを凌駕する女房役を凛として演じた。
和食がユネスコ世界無形遺産に登録されたのはタイムリーだった。
2時間1分
★★★★(見逃せない)
☆大阪ステーションシネマほかで公開中
(日本経済新聞2013年12月13日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)