武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『アーティスト』~今だからこそ、サイレントのメロドラマ

投稿日:2012年3月21日 更新日:

『アーティスト★』メイン【小】
© La Petite Reine – Studio 37 – La Classe Américaine – JD Prod – France 3 Cinéma – Jouror Productions – uFilm
本年度のアカデミー賞で作品、監督、主演男優など5部門を受賞した話題作です。
この映画、大好きです!!
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
世は3Dの時代。
どんどん技術革新が進む中、何とモノクロのサイレント映画が作られた。
わ~っ、映画の原点。
活動大写真や! 
それだけで心がときめいた。
と同時に、チャップリン映画ならまだしも、それで長編として持ちこたえられるのかなと余計な心配もした。
でも杞憂に終わった。
主役のニヤけた顔を目にした瞬間、なぜか安堵感を覚えたから。
サイレントからトーキーへ。
1927年、映画界に巻き起こった大激震を背景に、無声映画にこだわるハリウッドの大スター、ジョージ(ジャン・デュジャルダン)と時代の波に乗る新人女優ペピー(ベレニス・ベジョ)の成り行きが懐かしのメロドラマ風に綴られる。
シンプル・イズ・ベスト。
それを絵に描いたような展開が非常に心地よい。
容赦のない地位の逆転。
一世を風靡した者が落ちぶれると、何とも惨め。
あゝ、忘れられぬ過去の栄光。
そこに言い知れぬペーソス(悲哀)が生まれる。
主人公のやつれた姿が、『サンセット大通り』(50年)のグロリア・スワンソン扮する大女優とだぶって仕方がなかった。
ペピーの恋心がいじらしい。
彼女が端役に甘んじていたとき、憧れ、尊敬し、愛するジョージのタキシードに自分の腕を通すシーンがある。
言葉なんて要らない。
映像と音楽だけで見せ切った。
「好きよ」「傍にいて」などと陳腐なセリフで喋られると、興ざめしてしまう。
この奥ゆかしさがたまりまへん。
ぼくは陶酔し、もうメロメロになった。
とりわけペピーのトロンとした大きな瞳が素晴らしい。
ほんま、ヤバイほどの名場面でしたわ。
サイレント映画へのオマージュ(憧憬)。
なので、往年の名作のパクリが散りばめられており、思わずニヤリとさせられた。
確かにオリジナリティーには欠けるが、それでも観させる。
時代がかった演出、愛犬アギーの巧演、絶妙な「音」の使い方、フィナーレの弾けるような高揚感……。
どれも堪能できた。
これがフランス映画というのがまたうれしい!
監督はミシェル・アザナヴィシウス
1時間41分
☆4月7日から全国ロードショー。
(映画ファンのための感動フリーペーパー『シネルフレ』2012年春の特別号の拙稿より)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。