武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

こんな夫婦ドラマが上映されます~『SAYAMA』

投稿日:2013年10月13日 更新日:

久しぶりのブログです。

先週の土曜日(10月5日)、日本ペンクラブの京都例会の懇親会を中座し、京都市内のバーで気付けがわりに美味なモヒートを味わってから、ええ塩梅で甲子園へ駆けつけました。

甲子園の阪神最終戦(VS巨人)。

それが阪神の「代打の神様」、桧山の引退試合でした。

実に爽やかな引き際でした。

ちょっと泣けました。

今日のCS(クライマックス・シリーズ)の第2戦、勢いづく広島に逆転負けを喫し、阪神の今シリーズはこれでお仕舞い。

あぁ、情けない。

さて、先日、非常に中身の濃いドキュメンタリー映画を観ました。

『SAYAMA 見えない手錠をはずすまで』(金聖雄監督)

1963年、埼玉県狭山市で女子高校生が誘拐され、殺害された狭山事件で、身に覚えがなく、これといった証拠もないまま逮捕された石川一雄さんの「今」を描いたものです。

今年は事件からちょうど半世紀、50年。

獄中32年、仮出所18年目の石川さんは今も無実を訴え続けてはります。

石川さんが被差別部落出身ということで、社会の注目を集めました。

ぼくの学生時代、「狭山事件糾弾!」「部落差別反対!」といった立て看板がキャンパス内に立てられてありました。

冤罪事件の“被害者”の多くが再審を勝ち取り、身の潔白を晴らしているのに、石川さんだけがそれがあたわず、苦渋の思いを抱いています。

捜査当局が証拠開示をしないのは、そこに部落差別を露骨に表現したものが数多くあるからだとみられています。

そういう狭山事件で人生を狂わされた石川さん。

この映画はてっきり真正面から差別問題に切り込む超シリアスなドキュメンタリーだと思っていました。

それが全然、違います。

石川さんの支援活動に携わった妻の早智子さんとの二人三脚の夫婦像が描かれているんです。

もちろん支援運動、冤罪、差別、人権についても言及されていますが、それらはむしろ脇筋的なもので、あくまでも石川さん夫婦の日常を追っています。

無実を前提で撮られているのですから。

現在、74歳の石川さん。

頭がほとんど禿げ上がっており、目皺の深さを見ると、獄中でえらい苦労をしはったことが伺えます。

でも笑顔が素晴らしい。

たいてい笑ってはります。

見様によっては仏さんのようにも見えてきて~(^o^)v

これまでの悲惨な人生を笑い飛ばすというか、諧謔なる精神を常に抱いており、清々しさを感じるのです。

再審を勝ち取るまで倒れてはならないと毎日、5キロ走ってはります。

映画の冒頭はランニングシーンからです。

計り知れないほど重いテーマなのに、それを全面的に描いていません。

しかもドキュメンタリー映画の常套手段でもあるナレーションを一切、入れず、石川さん夫婦と彼らを取り巻く人たちの肉声しか聞こえてきません。

その意味でも、とても新鮮なドキュメンタリーでした。

この手の映画はなかなか映画館で公開できません。

映画『SAYAMA』製作委員会では全国各地での上映活動を続けていくそうです。

詳しくは同委員会のHPをどうぞ。

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

京都で「反論」講演会、盛り上がりました!

京都で「反論」講演会、盛り上がりました!

映画が日本で最初に上映されたのは京都ではなく、大阪だった~! 拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)のトピックスに対する「反論」の講演会が昨日(28日)、京都・壬生のおもちゃ映画ミュージアムで開かれまし …

日経新聞に大きく載りました~!

日経新聞に大きく載りました~!

今朝の日経新聞朝刊「読書」面に大きく掲載されていました~‼️ 拙著『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房)の書影がないのは残念ですが、小説家「東龍 …

読みごたえバッチリ、『映画で語るアイルランド 幻想のケルトからリアルなアイルランドへ』

読みごたえバッチリ、『映画で語るアイルランド 幻想のケルトからリアルなアイルランドへ』

『映画で語るアイルランド 幻想のケルトからリアルなアイルランドへ』(論創社、定価:本体3000円+税)。 映画とアイルランドをこよなく愛するぼくには、たまらなく素敵な一冊です。 20年前、ぼくが上梓し …

小栗康平監督はお元気でした~!!

小栗康平監督はお元気でした~!!

『泥の河』(1981年)、『伽耶子のために』(84年)、『死の棘』(90年)、『眠る男』(96年)、『埋もれ木』(2005年)。   33年間に手がけた映画がわずか5本。   小栗康平監督は実に寡作な …

怒涛の数日間を振り返って

怒涛の数日間を振り返って

久しぶりのブログです。 芦屋BARの1周年記念ライブ(11月22日)のあと、なにかと慌しい日々を過ごしていました。 翌23日(土)は、ちょかBandの相方、疋田さんと天王寺の口縄坂で、ミュージック・ビ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。