2代目タイガーマスクとして活躍したプロレスラーの三沢光晴さん、そしてレフェリーの田辺哲夫さんが、相次いで試合中に亡くなりはりました。ご冥福をお祈りします。
最近でこそあまりプロレスを観なくなりましたが、中学・高校のころ、ぼくはかなりのプロレスマニアでした。
難波の大阪府立体育館にしばしば足を運び、試合後のTVインタビューに臨むジャイアント馬場の汗まみれの背中をピシャピシャ叩いたり、「リトル・タケ」というリングネームをつけ、体育館や教室で友達と技をかけ合ったり。いっぺん失神寸前になったこともあります。
一番好きなレスラーは、「鉄の爪」ことフリッツ・フォン・エリックでした。握力勝負という単純明快な必殺技アイアン・クロウにしびれた~~。ちなみにぼくの得意技はドロップキックでした~!
そんなこんなでプロレスは、K1や総合格闘技とはまた違った意味で、いまでも気になる“スポーツ”です。
そのレスラーの生きざまを赤裸々に描いたアメリカ映画が公開されています。タイトルは、ズバリ、『レスラー』。以下、日本経済新聞に載ったぼくの映画評です。
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©Niko Tavernise for all Wrestler photos
1980年代、銀幕でセクシーな魅力を振りまいたアメリカ人男優ミッキー・ローク。正直、ぼくには完全に過去の人になっていましたが、この映画で見事、カムバックを果たしました。それだけでも興味をそそられますね。
ロークが演じたのは、20年前、全米を沸かせた人気プロレスラーのランディ。今やすっかり落ちぶれ、興行で田舎町を転々とし、老骨にムチ打ってリングに上がっています。名誉、家族、金、愛。全てを失い、トレーラーハウスでの独り暮らし。猛烈に孤独だ。さらに持病の心臓病と将来への不安、恐怖が重なる。
そんな中年男がもがきながらも、自分の居場所を求めて奮闘するんです。悲壮感がにじみ出る壮絶な生き方。ダーレン・アロノフスキー監督は主人公との程よい距離感を保ちつつ、濃密な人間ドラマに仕上げています。生きることの辛さを痛烈にあぶり出すと同時に、素晴らしさも謳い上げていました。
ランディが俳優ロークその人! 実際、脚本は彼を念頭に置いて書かれました。ロークは3か月間、みっちり肉体を鍛え上げ、プロレスのイロハを覚え、映画に臨んだという。全てスタントマンなしの体当たりの演技。コーナーポストの上で仁王立ちし、リングの中央へとジャンプする必殺技が冴える。プロレスラー顔負けです。56歳。恐れ入る!
ランディが心を許すシングルマザーのストリッパー、キャシディ(マリサ・トメイ)との絡みが絶妙でした。互いに心に傷を負った者同士。少し怯えながらも、接近していく2人の吐息が切々と伝わってきます。トメイのこなれた演技にぼくはため息がもれました。巧い!
1人娘ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)との関係修復を図るくだりも秀逸。そこでダメ親父ぶりをさらけ出すのですが、この男の生き方自体が愚直そのもの。直球しか投げられない不器用なところになぜか男気を感じました。1時間49分。
(日本経済新聞2009年6月12日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
栄光からの転落、自分の居場所を求めて~『レスラー』
投稿日:2009年6月16日 更新日:
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