武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

島原、よかったです~!

投稿日:2012年2月18日 更新日:

読売新聞で随時、連載している『映画の地を訪ねて』の取材で、きのう(17日)、きょう(18日)と2日間、九州の島原と雲仙(長崎県)を旅してきました。
当地へ足を運んだのは初めて。
映画作品は、これぞメロドラマといわれる『君の名は』です。
佐田啓二(中井貴一のお父さん)と岸恵子が織り成す「すれ違いドラマ」の代表作。
空前のヒットを記録し、年配者には忘れがたい映画になっていることでしょう。
ぼくがこの世に生を授かった1954年(昭和29年)、3部作の3作目で、雲仙と島原でロケ撮影されました。
映画の話は、新聞の原稿でたっぷり盛り込むつもりですので、ここでは徒然なるままに綴ります。
新幹線の「さくら」で熊本まで直行、熊本港からフェリーで対岸の島原に着きました。
このルートが一番、便利みたいですね。
有明海を横切るフェリーに群がるカモメです。
IMG_5248
乗客が面白半分にお菓子を与えるので、乱舞状態。
島原に到着後、まず向かったのが、雲仙普賢岳災害記念館です。
IMG_5257
21年前、噴火による火砕流で44人が犠牲になったあの大惨事を歴史に留めておこうと長崎県が設立したものです。
IMG_5265
DVC00019
犠牲者は住民、消防団員、警察官、火山研究者、報道関係者。
報道関係者の中には、読売新聞の記者時代、随分、お世話になった写真部の大先輩、Tさんも含まれています。
噴火で盛り上がった平成新山を目にした瞬間、思わず合掌…。
IMG_5258
Tさんの笑顔が頭に浮かび、涙があふれ出てきました。
記念館から市街地へタクシーで向かう途中、ぼくと同い年の運転手さんからいろいろ話を聞きました。
この人、噴火のとき日本テレビのクルーとしょっちゅう行動を共にしていたと言っていました。
惨事が起きた日、たまたま早く山をくだり、その後のタクシーに乗った3人のクルーと運転手が犠牲になったそうです。
「あれから20年以上が経ちましたが、あの日のことは忘れられません」
運転手さんの悲しげな表情。
ふーーっ。
ため息。
さて、島原の街は、お城を中心に整然とした家並みが広がっています。
白亜の島原城。
DVC00053
石垣と水路が印象深い武家屋敷跡。
IMG_5290
各地に点在する涌き水。
IMG_5300
鯉が泳いでいます。
IMG_5297
このように観光スポットがいろいろあるのに、どうも活気がなく、ひっそりしています。
衰退しつつある今の日本の地方都市を象徴しているような…。
人通りがほとんどないんです。
胸が痛みました。
市内のあちこちに温泉旅館があります。
ぼくが泊まった宿の露天風呂は最高でした~!!
夕食も申し分なかった。
島原市からのプレゼントで添えられた「がんば」の湯引きは感動ものでした。
この辺りでは、フグのことを「がんば」と言うんですね。
つまり、フグの湯引き。
すんません、写真がピンボケだったので、載せれません。
野菜、根菜類、ちくわ、キノコ、餅などをあっさり風味で煮込んだ「具雑煮」は島原の郷土料理です。
DVC00025
これは日本酒に合った~。
DVC00042
翌日、バスで雲仙高原に向かいました。
寒波襲来による積雪・路面凍結で、道路が閉鎖されているのではと心配しましたが、杞憂に終わりました。
バスは平成新山のすそ野を走行。
車窓から見た自然の造形物のすごさに圧倒されました。
雲仙は、湯煙ならぬ火山性の白っぽいガスに包まれていました。
DVC00046
DVC00047
地表からガスが吹き出し、硫黄の臭いが強烈に鼻につく。
雲仙地獄と呼ばれています。
ここで『君の名は』の撮影が行われました。
岸恵子がふんしたヒロインにちなみ、「真知子石」という名の岩があります。
IMG_5328
しばし映画の世界に浸りたかったのですが、長居は無用。
なにせ寒い~o(><)o
氷点下2度。
手袋をしているのに、指の先端がしびれるくらい。
早々に引き上げ、雲仙観光ホテルに<避難>しました。
IMG_5354
真知子が事務員として働いたホテルです。
非常に格調高いレトロなホテルで、スタッフの行き届いた応対には感心しきり。
もちろんそこも撮影スポットでしたが、当時を知る従業員はゼロでした。
半世紀以上前のことですから、まぁ、しゃーないですね。
撮影隊の面々が食事をしたであろうレストランでランチタイム。
生ハムのサンドイッチとエビスビール。
古きよき大正ロマンの空気に浸れたような錯覚に…。
久しぶりに優雅なひと時を過ごせました。
今回の旅では、強烈な出会いはなかったけれど、地元の人たちの親切心や素朴な気持ちに触れ、何度ホッとさせられたことか。
地図を手にして島原の街を歩いていると、いきなり車が停まり、「寒いから、さぁ、車に乗って~!どこに行きたいんですか」とぼくを目的地まで連れて行ってくれたおばちゃん。
歩き疲れてベンチに座っていたら、「これ飲んだら、身体が温まるよ」とホットの缶コーヒーをくれたおじいちゃん。
都会ではなかなか味わえない人情をたっぷりいただきました。
島原を去る前、どうしてもやっておきたいことがありました。
それは島原鉄道に乗ること。
DVC00054
典型的なローカル鉄道です。
天守閣の向かいにある島原駅からフェリーが発着する島原外港駅までの3駅間を乗りました。
1両だけのディーゼル車。
もちろんワンマンカーです。
こんな列車を目にすると、たまらなく郷愁を覚えるんですよ。
乗客はぼくとおじいちゃんだけ。
DVC00057
1時間に2本。
利用者が少ない……。
まさに赤字経営を絵に描いたような光景です。
そんなこととは関係なく、若い運転士は「信号、青~! ポイント、よし~!」と大声を出して確認しながら、運転していました。
そしてぼくが下車した時、深々と頭を下げ、「ご乗車、ありがとうございました」。
「いえいえ、どうも」
反射的に、ぼくも頭を下げてしまった。
大阪の地下鉄では絶対にあり得ないことです。
ということで、気分よく旅を終えました。
チャンチャーン~♪

-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

明日(14日)から南インドへ旅立ちます~(^_-)-☆

明日(14日)から南インドへ旅立ちます~(^_-)-☆

バレンタインデーの明日、14日から南インドへ旅立ちます。 還暦記念の1人放浪の旅です~(^○^) シンガポール航空を利用して、シンガポール経由でトリバンドラム(ケララ州)へ向かいます。 そこからバスと …

バルト3国レポート(9)~

バルト3国レポート(9)~

きのうに続き、バルト旅行のレポートです。 翌朝(7月23日)、ホテルの前からバスに乗り、北へ約3キロの旧軍港地区(カロスタ)へ向いました。バンを改良したミニバスで、10人も乗ればぎっしり満席。乗客はみ …

スペインひとり旅(5)

スペインひとり旅(5)

田舎町のソリア(Soria)、思っていた以上に素敵なところでした。 海外の観光客がいないのが心地良いです~(^-^)v ちゃんと闘牛場もあります。 土曜日とあって、地元のみなさんバルで目一杯、くつろい …

バルト3国レポート~(2)

バルト3国レポート~(2)

バルト3国は思いのほか治安がよかったです。もちろんうさん臭いところもありましたが、でも昼間ならべつにどうってことなかったですよ。警察官もあまり眼につかなかった。 リトアニアの首都ヴィリニィスを散策して …

アイルランドのパブをのぞくと……

アイルランドのパブをのぞくと……

アイルランドを訪れると、まず眼につくのがパブの看板です。 どんな辺鄙な田舎でもパブと教会だけはかならずあります。 なにしろ人口が380万人程度なのに、1万軒以上ものパブがあるというのだから驚き~! パ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。