武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

極上のサスペンス&ミステリー~『ミケランジェロの暗号』

投稿日:2011年10月1日 更新日:

今日から10月、神無月です。
2011年もあと3か月になりましたね。
こんな面白い映画が上映されていますよ。
『ミケランジェロの暗号』
ちょっと珍しいオーストリア映画です。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
ミケランジェロ
© 2010 AICHHOLZER FILM & SAMSA FILM ALL RIGHTS RESERVED
第2次大戦の悲劇、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を逆手に取った極上のサスペンス・ミステリー。
俗気をはらませた内容なのに、不思議と洒脱な空気を放つ。
こんな娯楽作に出会うと、無性に嬉しくなる。
オーストリア人のウォルフガング・ムルンベルガー監督が、「ヒトラーの贋札」(2007年)と同様、ナチスとユダヤ人の絡みを映像に焼きつけた。
今回も偽物がキーワードとなる。
ドイツが同盟国イタリアとより強固な連携を図ろうとミケランジェロの素描を寄贈した。
400年前、バチカンから盗まれたという逸品で、所有していたウィーンのユダヤ人画商から略奪したもの。
しかしそれが贋作だった。
画商の経営者はすでに死亡。
そこでドイツ側は強制収容所にいる息子ヴィクトル(モーリッツ・ブライプトロイ)に本物のありかを聞き出そうとする。
しかし別の収容所に送られた母親を救うため、彼は一世一代の大勝負に出る。
ユダヤ人は犠牲者という認識を覆し、ナチスを手玉に取るヒーローとして主人公を描いている。
生への渇望を抱く才気煥発な青年。
何とも痛快で、たくましい。
非常にデリケートな問題だが、悲劇に終わらせず、かといって単純な喜劇にもしない。
両者を巧みに融合させた悲喜劇、そんな作風だ。
ヴィクトルを追及するのが、画商の使用人の息子ルディ(ゲオルグ・フリードリヒ)。
2人は幼なじみだが、地位と名誉ほしさに彼はナチスに傾倒する。
敵同士となった彼らの腐れ縁的な関係とやり取りが、ユーモアとアイロニー(皮肉)を添え、物語をテンポよく転がせていく。
緊張感をはらませたストーリー展開が秀逸。
そこに歴史的事実を加味させ、作品に重しを与えた。
格調高い雰囲気も心地良かった。
1時間46分。
★★★★
☆シネ・リーブル梅田で上映中
(日本経済新聞2011年9月30日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。