武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

プリンセスから1人の女性への回帰~『ダイアナ』

投稿日:2013年10月19日 更新日:

© 2013 Caught in Flight Films Limited.All Rights Reserved

「世界のプリンセス」と呼ばれた英国の元皇太子妃ダイアナさん。

この映画を天国からどんな風に観てはるんやろうな~(^o^)v

    ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

16年前、36歳で急逝した英国のダイアナ元皇太子妃。

彼女のドラマチックな人生の映画化は予期されていた。

ただ、王室から離れていたとはいえ、やんごとなき人。

いかに切り込むのか、そこが気になった。

本作は秘められた恋愛に焦点を当てた。

安易に描写すると、醜聞的になる。

それをドイツ人のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が外国人として適度な距離感を保ったまま、芯のある女性ドラマに仕上げた。

夫チャールズ皇太子との別居3年後(1995年)、ダイアナは2人の息子とたまにしか会えず、寂しさと孤独感を募らせていた。

そんな時、パキスタン人の心臓外科医ハスカット・カーンと出会い、恋に落ちる。

ナオミ・ワッツがヒロインになり切って大熱演。

見様によってはそっくりだった。

恋人役のナヴィーン・アンドリュースの風格ある演技も申し分ない。

変装して逢瀬を重ねるダイアナの一途さと無邪気さ。

まるで初恋に酔いしれる少女のようで、ことさら純真さを際立たせる。

その反面、メディアを巧みに利用し、世論を味方につけようと画策する。

なかなか狡猾だ。

懇意にしている記者に電話でリークする時の表情がいかにも小悪魔的で印象深い。

彼女が尽力した地雷廃絶運動や慈善事業といった公的な部分だけでなく、裏の面や私生活まで余すことなく映し出す。

暴露しすぎた感があるも、それが核心部として重みを増す。

「世界のプリンセス」から本来の自分への回帰。

単なる恋物語に終わらせなかったところに監督の見識を感じた。

2人の関係を濃厚に、かつ品よく描いた手腕も評価したい。

「クイーン」(2006年)、「英国王のスピーチ」(10年)など英王室を題材にした映画が存外に多い。

本作はその〈番外編〉として記憶に留まるだろう。

1時間53分

★★★★(見逃せない)

全国で公開中

(日本経済新聞2013年10月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』~クリスマスに公開

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』~クリスマスに公開

今日、アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』(12月25日公開)を試写で観てきました。   ぼくの大好きな作家、亡き田辺聖子さんの原作を大胆にアレンジし、池脇千鶴と妻夫木聡が共演した実写版(200 …

『ビバ! ウイスキー アンド シネマ』~11月26日(日)午後3時から豊中のショットバー・リーで開催

『ビバ! ウイスキー アンド シネマ』~11月26日(日)午後3時から豊中のショットバー・リーで開催

11月初旬刊行の新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)にちなみに、またまたトークショーが決まりました~❗ 『ビバ❗ ウイスキー アンド シネマ』 素敵な女性バーテンダー …

関大梅田キャンパスでのミニ・セミナー『銀幕に映えるウイスキー』

関大梅田キャンパスでのミニ・セミナー『銀幕に映えるウイスキー』

昨夜は関西大学梅田キャンパスで会員限定の交流会&ミニセミナー。 演題は『銀幕に映えるウイスキー』。 新刊に向けた内容ではなく、映画とウイスキーとの関わりを広く、柔らかく、面白く、かつ「深く」 …

何とも歪な純愛映画……『彼女がその名を知らない鳥たち』(日本映画)

何とも歪な純愛映画……『彼女がその名を知らない鳥たち』(日本映画)

登場人物が全てクセ者で、嫌悪感すら抱かせる。 そんな泥々とした物語の中で、ピュアな〈無償の愛〉を謳い上げた。 強烈なインパクトを与え、不思議な余韻を残す異色恋愛映画だ。 ⓒ2017映画「彼女がその名を …

鈴木晰也さん、安らかに~

鈴木晰也さん、安らかに~

『青嵐』 「青葉を吹きわたる風」を意味するこんな題字の可愛い御本が届きました。 日本を代表する映画プロデューサーで、大映京都撮影所の所長をされておられた鈴木晰也(あきなり)さんの追悼・遺稿集です。 鈴 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。