武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

無常観が漂う英国映画~『わたしを離さないで』

投稿日:2011年4月1日 更新日:

きょうの日経新聞夕刊に載った映画の拙稿をどうぞ。
わたしを離さないで
    (c)2010 Twentieth Century Fox
限られた人生をいかに全うするべきか。
本質的なテーマに迫ったSF映画である。
といっても、SFらしくない。
愛情と友情を描いた青春映画ともいえる。原作は日系英国人作家カズオ・イシグロの同名小説。
英国の田園地帯にある寄宿学校。
そこで共同生活を送る子供たちは一見、ごく普通の少年、少女だが、1970年代にしては、地味でレトロな服を着ている。
しかも敷地から一歩も出ず、時折、「マダム」と称する女性から使い古した人形を与えられて喜んでいる。
不可解な空気が放たれる中、仲良しの3人組に焦点が当てられる。
控えめな少女キャシー(キャリー・マリガン)、彼女と心を通わすナイーブな少年トミー(アンドリュー・ガーフィールド)、独善的な娘ルース(キーラ・ナイトレイ)。
18歳で農場のコテージに移ってから、彼らの感情が複雑に絡み合う。
嫉妬心、喪失感、諦観、怒り。
淡彩な映像とは裏腹に、激しい心のうねりをあぶり出す。
孤立していくキャシーが哀しくてたまらない。
そのうち痛みを伴ったひたむきさが3人から伝わってくる。
臓器移植が絡んだ残酷な運命を甘受せねばならない、そんな特別な人生。
だから今の一瞬を輝かそうと必死なのだ。
その姿が切なく、また美しい。
再会した彼らが寄宿学校の秘密を確かめようと、ある行動を起こす……。
無常観が全編を覆っており、生かされているという仏教思想もそこはかとなく感じられる。
原作の世界観を、マーク・ロマネク監督が抑制の効いた演出で如実に反映させた。
英国の物語なのに、どこか日本のドラマのよう。
ぼくにはそう思えてならなかった。
厳しい内容だが、実は生きる素晴らしさを謳い上げている。
国難の最中にある今、観ておきたい作品だ。
1時間45分。
★★★
(日本経済新聞2011年4月1日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
☆公開中

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。