懐かしい匂いを放つハードボイルド。
大阪の街が登場人物の吐息と見事にマッチし、男のロマンを燃え盛らせる。
パワフルな演出を持ち味にする井筒和幸監督の真骨頂が出ていた。
原作は女性作家、高村薫の同名デビュー小説(1990年)。
6人の男たちが大手銀行本店の地下に眠る240億円の金塊強奪を計画する。
札束でないところがミソ。
リーダーのトラック運転手、北川(浅野忠信)と裏稼業で生きる幸田(妻夫木聡)の再会から、磁石に吸い寄せられるがごとく仲間が集まる。
その過程で各人の背景と個性を巧みに、かつテンポ良く見せる。
この手の集団劇の醍醐味だ。
江戸っ子気質丸出しで、貫禄十分な浅野の演技は意外性があった。
妻夫木のクールすぎる男はやや鼻につくが、三枚目的な役どころに扮した桐谷健太のコミカルな味は効いている。
彼らを邪魔する輩がみな謎めいており、胡散臭い。
いかにもフィルム・ノワール(暗黒映画)といった雰囲気。
クライマックスが夜の場面とあって、作品を包み込む映像も全体的に暗鬱なイメージを与える。
ダイナマイトを使った犯行手口もそうだが、徹底的にアナログにこだわる。
デジタル機器は一切なし。
携帯すら使われない。
頭脳と腕力だけで勝負する。
過激派の残党も現れ、70年代の空気を濃厚にはらませる。
このレトロ感が心地よい。
閉塞感が漂う日常を打破し、とてつもなく大きな目標に挑むメンバーの姿に今日性を感じた。
犯行の舞台となる中之島界隈、吹田の住宅街、梅田の歓楽街……。
澱んだ大気を伴い、大阪特有の蒸し暑い夏が描かれる。
冬場に撮影したとはとても思えない。
井筒監督が『ガキ帝国』(81年)で捉えた大阪の不良少年とどこか似通う。
それは反逆性と儚げさに起因するからだろうか。
2時間9分。
★★★
☆11月3日、全国ロードショー
(日本経済新聞2012年11月2日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)