武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

超パワフルな時代劇アクション~『十三人の刺客』

投稿日:2010年9月27日 更新日:

大阪地検特捜部の主任検事によるデータ改ざん、尖閣諸島沖の中国漁船との衝突事件……、何やらきな臭い出来事が相次いでいますね。
ふたつの事案ともまずは真相究明が先決だと思います。
じっくり腰を据えて、取り組んでほしいです。
焦りは禁物です。
さて、映画です。
痛快作『十三人の刺客』。
日本経済新聞文化欄に掲載された拙稿です。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
13人(2)
      C2010「十三人の刺客」製作委員会
13人の侍が300余人の相手に挑む。
圧倒的に不利な状況下での死闘を描いた時代劇アクション。
C2010「十三人の刺客」製作委員会
これでもか、これでもかと畳み掛けるエネルギッシュな映像に最後まで気圧された。
江戸末期、将軍の弟の明石藩主(稲垣吾郎)を暗殺せよと、御目付役の新左衛門(役所広司)が老中に命じられる。
この藩主がとんでもない暴君。
人間性のかけらがこれっぽっちもない悪の権化に祭り上げたことで、単純明快、話が非常にわかりやすくなった。
新左衛門が刺客を集める過程が前半の見どころ。
C2010「十三人の刺客」製作委員会
13人それぞれが特技を持つ。
剣豪浪人平山(伊原剛志)の殺気迫るオーラ、人間離れした山の民小弥太(伊勢谷友介)の素っ頓狂な言動……。
黒澤明監督の名作「七人の侍」(1954年)を彷彿させる人物描写になぜかホッさせられる。
参勤交代の帰途に着く明石藩主の一行を彼らが宿場で待ち伏せる。
ここから三池崇史監督のスピーディーでパワフルな演出が炸裂する。
要塞化した集落にあっと驚くワナを仕掛け、相手の軍勢を閉じ込める。
C2010「十三人の刺客」製作委員会
限られた空間での肉弾戦。
13人(1)
        C2010「十三人の刺客」製作委員会
火薬、弓矢、松明をつけた猛牛などを出してメリハリをつける。
力対力だけでなく、智略の闘いであることも印象づける。
この山場がラスト50分間も続く。
全体の3分の1。
ペルシア戦争の激戦を描いた米映画「300〈スリーハンドレッド〉」(2007年)の300人対100万人には遠く及ばないにせよ、劣勢を跳ね返す不屈の闘志が伝わってくる。
銀幕を血の海に染めなかったのがよかった。
集団抗争時代劇の代表作といわれる東映の同名映画(1963年)のリメーク。
敵方が53人から5倍以上に増え、娯楽色も大幅にアップした。
痛快無比! 
しかしそこに虚無感を出したところにぼくは共感した。
2時間21分。
★★★★
☆全国東宝系にて公開中。
(日本経済新聞2010年9月24日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。