武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

三億円事件の真相に迫る映画『ロストクライム 閃光』

投稿日:2010年7月9日 更新日:

ロストクライム
   ©2010「ロストクライム-閃光-」製作委員会
ぼくが中学2年のときでした。
「戦後最大のミステリー」と呼ばれた三億円事件が起きたのは。
遺留品がいっぱいあり、犯人とも接触しているのに、事件解決に至りませんでした。
ちょっぴり懐かしさを込めて、日本経済新聞にこの映画の原稿を書きました。
    *     *     *     *     *     *
1968年の暮れ、ニセの白バイ警官にボーナスの現金約3億円を積んだ輸送車が乗っ取られた。
いわゆる三億円事件である。
世間をあっと言わせたこの未解決事件を、濃厚なサスペンス風味で大胆に解き明かした。
東京・隅田川で発見された絞殺死体が物語の発端となる。
定年間近の古参刑事、滝口(奥田瑛二)が捜査班に自ら志願するも、勝手に独自調査を進め、コンビを組んだ若手刑事、片桐(渡辺大)を戸惑わせる。
滝口の心を動かしたのは、被害者が三億円事件の最重要容疑者の1人だったから。
ここで時の隔たりが一気に縮まる。
三億円事件の捜査員だった彼は当時、実行犯グループをほぼ特定しながら、逮捕に至れなかった。
いや、事件をうやむやにされたのだ。
なぜ? 
これを機に全容を解明したい。
その一心で片桐を巻き込み、実像に迫ろうとする。
原作は永瀬隼介の小説「閃光」。
それを伊藤俊也監督がリアリズム重視の姿勢で映画化した。
学生運動の炎が燃え盛り、反体制・反権力の息吹が充満していた60年代の空気を忠実に映像に取り込んだ。
事件を再現したモノクロのシーンは秀逸。
ただ、演出がややくどい部分もあった。
犯人グループの素顔や犯行動機にまで言及しており、これが事実かもしれないと思わせる。
それ以上に事件と関わった人物のその後と現在をあぶり出した人間ドラマとしても見させる。
誰も傷ついていない「クリーンな犯罪」と言われたが、実は関係者はいろんな意味で傷ついていたという解釈が皮肉めいていて面白い。
この事件に魅入られた滝口の執念に気圧される。
気骨あるベテラン刑事はアナログ時代でしか生きられないのか。
あゝ、古色蒼然とした佇まい。
それが映画の基調になり、奥田の凄みある演技が作風を決定づけた。
1間58分。★★★(見応えあり)
☆梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、三宮シネフェニックスほかにて公開中
 配給:角川映画
(日本経済新聞2010年7月2日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。