武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

日本とトルコの深い関わりをストレートで切り込む~『海難1890』

投稿日:

日本とトルコが深く関わった出来事に迫る両国の合作映画。

 

目の前で絶望に陥っている人たちに手を差し伸べる人道的行為を真正面から見据える。

 

テロの脅威が増し、人命が軽んじられる昨今だけに、胸が熱くなった。

 

2部構成の大作だ。

 

1部は明治中期(1890年)、和歌山・串本沖で起きたオスマン帝国(トルコの前身)の軍艦エルトゥールル号海難事故を再現する。

 

同艦は帰国途中、台風に遭遇して大破・座礁、587人もの犠牲者を出した。

 

事故の直後、村人が総出で荒海に繰り出し、救出に当たる。

 

てきぱきと指示を与える医師(内野聖陽)が黒澤明監督「赤ひげ」の主人公を想起させ、存在感を際立たせた。

(C)2015 Ertugrul Film Partners

(C)2015 Ertugrul Film Partners

大がかりなセットで撮られた遭難シーンは迫力満点だ。

 

貧しい村人が自分たちの乏しい食料を救助したトルコ人乗組員に惜しみなく分け与える。

 

その温情に接し、日本人をよく知らない彼らの心が和らいでいく。

 

その姿には理屈抜きに感涙。

 

この大惨事から95年後のイラン・イラク戦争時(1985年)、イランからの脱出を図る300人を超える日本人がテヘラン空港に取り残された。

 

彼らを救出すべく、トルコ政府が英断を下す。

 

それが2部だ。

 

1部で重要な役どころを演じた忽那汐里とトルコ人俳優ケナン・エジェがここでも軸となる役に扮する。

 

時の隔たりを経て、両国の結びつきと恩返しの構図を印象づけるためだ。

 

定石ともいえる手法だが、別段、違和感を覚えなかった。

 

歴史的な事件、事故を描く場合、ドラマ性を高めんがためにとかく美化しがちである。

 

本作もそのきらいがないとはいえない。

 

しかしそれを差し引いても、最後までぐいぐい引きつけられた。

 

重い演出とストレートな主題。

 

加えて、10年がかりで映画化にこぎつけた田中光敏監督の執念と熱情。

 

それらが融合した作品だった。

 

2時間10分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆5日から大阪ステーションシティシネマほかで公開

 

(日本経済新聞夕刊に2015年12月4日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

マレーシア人監督が撮った大阪映画~『新世界の夜明け』

マレーシア人監督が撮った大阪映画~『新世界の夜明け』

大阪のシンボル通天閣がそびえる新世界。 そこを舞台にした映画を、今朝、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで観ました。 『新世界の夜明け』 地名がそのままタイトルになっています。 中国・北京で暮らす金持ちの娘が …

新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』の発刊記念イベント、11月18日(土)に!!

新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』の発刊記念イベント、11月18日(土)に!!

11月初旬刊行の新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)の発刊記念イベント~! 11月18日(土)午後3時~、大阪・谷町6丁目の隆祥館書店で開催されます。 映画とウイスキ …

奮闘する町の本屋さん、隆祥館書店にエール! 18日に発刊記念イベント~(^_-)-☆

奮闘する町の本屋さん、隆祥館書店にエール! 18日に発刊記念イベント~(^_-)-☆

デジタル化の大波に飲み込まれ、非常に厳しい状況にある活字文化&出版文化。 そんな中、大阪・谷町六丁目の隆祥館書店は使命感を持って、作家を囲む会を開いたりして大奮闘している町の本屋さんです。 …

21日、またまた『大阪「映画」事始め』の講演をします~(^_-)-☆

21日、またまた『大阪「映画」事始め』の講演をします~(^_-)-☆

今夕、ABCの情報番組『キャスト』で特集「神戸・京都・大阪の映画発祥地論争(?)」が放映されました。 海外からの映画導入に貢献した稲畑勝太郎さんと荒木和一さんの名前が出てこなかったのは残念ですが、短い …

大阪アジアン映画祭が始まりました~!

大阪アジアン映画祭が始まりました~!

黄砂、PM2.5、花粉。   “恐怖の3点セット”が混じった空気に包まれていますが、もう春ですね。   そんな中、大阪では昨日から第8回大阪アジアン映画祭が始まりました。 &nbs …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。