日本とトルコが深く関わった出来事に迫る両国の合作映画。
目の前で絶望に陥っている人たちに手を差し伸べる人道的行為を真正面から見据える。
テロの脅威が増し、人命が軽んじられる昨今だけに、胸が熱くなった。
2部構成の大作だ。
1部は明治中期(1890年)、和歌山・串本沖で起きたオスマン帝国(トルコの前身)の軍艦エルトゥールル号海難事故を再現する。
同艦は帰国途中、台風に遭遇して大破・座礁、587人もの犠牲者を出した。
事故の直後、村人が総出で荒海に繰り出し、救出に当たる。
てきぱきと指示を与える医師(内野聖陽)が黒澤明監督「赤ひげ」の主人公を想起させ、存在感を際立たせた。
大がかりなセットで撮られた遭難シーンは迫力満点だ。
貧しい村人が自分たちの乏しい食料を救助したトルコ人乗組員に惜しみなく分け与える。
その温情に接し、日本人をよく知らない彼らの心が和らいでいく。
その姿には理屈抜きに感涙。
この大惨事から95年後のイラン・イラク戦争時(1985年)、イランからの脱出を図る300人を超える日本人がテヘラン空港に取り残された。
彼らを救出すべく、トルコ政府が英断を下す。
それが2部だ。
1部で重要な役どころを演じた忽那汐里とトルコ人俳優ケナン・エジェがここでも軸となる役に扮する。
時の隔たりを経て、両国の結びつきと恩返しの構図を印象づけるためだ。
定石ともいえる手法だが、別段、違和感を覚えなかった。
歴史的な事件、事故を描く場合、ドラマ性を高めんがためにとかく美化しがちである。
本作もそのきらいがないとはいえない。
しかしそれを差し引いても、最後までぐいぐい引きつけられた。
重い演出とストレートな主題。
加えて、10年がかりで映画化にこぎつけた田中光敏監督の執念と熱情。
それらが融合した作品だった。
2時間10分
★★★★(見逃せない)
☆5日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2015年12月4日に掲載。許可のない転載は禁じます)