日本経済新聞(大阪本社)の金曜夕刊「文化欄」に、だいたい2週間に1度のペースで映画の原稿を書いています。「シネマ万華鏡」というコーナーです。一応、映画評になっていますが、ぼく自身としては映画エッセーのつもりで綴っていることが多いです。
紙面に掲載された分をこのブログで紹介できることになりましたので、これから折を見て、載せていきたいと思っています。「うずみ火」の映画エッセーとあわせ、映画関連が多くなっちゃいますが、ご了承ください。映画が好きゃねんからしゃーないですよね(笑)。
まずは現在、公開中のアメリカ映画『消されたヘッドライン』をどうぞ~。元新聞記者なので、ひじょうに興味深く観れました。*「ですます体」に変えています。
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ジャーナリストを描いた映画の中で、一番印象に残っているのがウォーターゲート事件を扱った「大統領の陰謀」(1976年)。それを多分に意識した社会派の娯楽映画でした。
首都ワシントンD.Cで起きた黒人少年の射殺事件と地下鉄駅での若い女性の突然死。全く関係のない二つの事案の関連性を、地元新聞社のベテラン記者マカフリー(ラッセル・クロウ)が察知します。なかなか興味をそそられる滑り出しです。
この記者、胡散臭い印象を与えますが、人一倍、ガッツと取材力を持っています。映画やドラマに登場する類型的な新聞記者丸出しで、思わず苦笑いしましたが……。情報入手のため、取材相手を脅したり、不法な手段を用いたりと、記者としてあるまじき行為を平然とするんですね。言語道断ですが、ここではフィクションと割り切り、大目にみましょう。
そんなマカフリーが新米の女性記者フライ(レイチェル・マクアダムス)と共に取材を進めるうち、民間軍事企業の関与が浮き彫りになってきます。こんな大きな情報をふたりだけで取材するなんてことはあり得ませんが、これも大目に見ましょう。まぁ、彼らが恋愛関係に発展しなかったのが救われました。
事件の解明が大スクープにつながるとあって、意気込むふたり。しかし真相に近づくにつれ、権力が立ちふさがってきます。そこに新聞社の経営問題を絡ませた辺り、ネット社会が浸透する時代を感じさせます。
非常にスリリングな展開です。それをイギリス人のケヴィン・マクドナルド監督が、サスペンス&ミステリーの空気を充満させ、濃厚な演出で見せきります。マカフリーと、事件の鍵を握る友人で有望な連邦議員コリンズ(ベン・アフレック)との駆け引きが面白い。
確固たる使命感を抱き、真実を暴こうと奮闘する新聞記者の意地と底力が伝わってきました。現場主義を貫く記者魂は普遍的であってほしい。強くそう願いました。2時間7分。
(日本経済新聞2009年5月29日夕刊。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載を禁止)
新聞記者の意地と底力、『消されたヘッドライン』~
投稿日:2009年6月5日 更新日:
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