武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

意味深なタイトルの家族映画~『ハッピーエンド』

投稿日:

心がざわめく問題作を撮り続けるオーストリアの名匠ミヒャエル・ハネケ監督。

老夫婦の物語『愛、アムール』(2012年)から5年ぶりの新作はブルジョワ家庭に焦点を当て、家族の軋みをあぶり出した。

冒頭からスマートフォンで撮影された粗い動画。

これは尋常ではないぞと思わせる。

案の定、大きな伏線になっていた。

北フランスで暮らすロラン家。家長のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニアン)は建設業のオーナーを引退し、悠々自適の日々。

どこか寂しげなところが気になる。

コピーライト:© 2017 LES FILMS DU LOSANGE – X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH – WEGA FILM – ARTE FRANCE CINEMA – FRANCE 3 CINEMA – WESTDEUTSCHER RUNDFUNK – BAYERISCHER RUNDFUNK – ARTE – ORF Tous droits réservés

稼業を引き継ぐやり手の娘アンヌ(イザベル・ユペール)と医師の息子トマ(マチュー・カソヴィッソ)の家族が同居している。

孫もいるので、三世代家族だ。

コピーライト:© 2017 LES FILMS DU LOSANGE – X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH – WEGA FILM – ARTE FRANCE CINEMA – FRANCE 3 CINEMA – WESTDEUTSCHER RUNDFUNK – BAYERISCHER RUNDFUNK – ARTE – ORF Tous droits réservés

一見、幸せそう。

しかし互いに無関心で、会話がほとんどない。

やがて各人の実像や秘密が浮き彫りになるにつれ、言いようのない不協和音が生じてくる。

こうした中、トマと先妻との間に生まれた娘エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)が家族に加わり、一気にドラマが深化する。

彼女の繊細さ、不可解さ、不気味さになぜか惹かれる。

コピーライト:© 2017 LES FILMS DU LOSANGE – X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH – WEGA FILM – ARTE FRANCE CINEMA – FRANCE 3 CINEMA – WESTDEUTSCHER RUNDFUNK – BAYERISCHER RUNDFUNK – ARTE – ORF Tous droits réservés

「孤独」「自殺未遂」という共通項からエヴと祖父が接近する。

そのプロセスが実にスリリング。

ストーリーを想定外に展開させる演出が効いている。

難民・移民の排斥問題、ポピュリズムと極右勢力の台頭……。

見ようによれば、閉塞感が強まる現在のヨーロッパ像をこの家族に置き換えているようにも思える。

他者への思いやりと寛容なる精神の希薄。

誰もが自己中心的。

そんな現状を憂うハネケ監督の切なる想いが映像の端々から伝わってくる。

題名が非常に意味深だが、衝撃的なラストシーンを観れば、納得するだろう。

本作を「笑劇」と位置付けた監督の真意も分かった。

1時間47分

★★★★(見逃せない)

☆3日からシネ・リーブル梅田、京都シネマ、角川シネマ有楽町など公開

(日本経済新聞夕刊に2018年3月2日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

いきなり533人の父親に~!? カナダ映画『人生、ブラボー!』

いきなり533人の父親に~!? カナダ映画『人生、ブラボー!』

こんな映画があってもいいと思います。   後味がめちゃめちゃいいもの。        ☆     ☆     ☆     ☆     ☆ (C) 2010 DIMS Film, L …

『ミナミまち物語 シネマ・ヒストリー』が完成~!!

『ミナミまち物語 シネマ・ヒストリー』が完成~!!

大阪・ミナミの活性化を目指し、地元企業が中心になって組織された「ミナミまち育てネットワーク」。 そのホームページに、ぼくが執筆した『ミナミまち物語 シネマ・ヒストリー』が新設されました。 〈日本映画の …

鮮烈な青春映画~『苦役列車』

鮮烈な青春映画~『苦役列車』

(C)2012「苦役列車」製作委員会 ちょっと強烈な映画が近々、封切られます。 『苦役列車』 拒否反応を示す人もいるかもしれないけれど、ぼくは高く評価しています。     ☆    ☆    ☆    …

稀代の結婚詐欺師、『クヒオ大佐』~

稀代の結婚詐欺師、『クヒオ大佐』~

今、公開中の日本映画『クヒオ大佐』はちょっと拾いモノでした。映画エッセーをどうぞ。  *     *     *     *     *     * 人を騙すのは良くないことだが、詐欺師がいかにして善 …

美声を聴かせて、成長する問題児~♪♪ 『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』

美声を聴かせて、成長する問題児~♪♪ 『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』

最近、ブログは映画ばかり。   今回もそうです(笑)   ☆     ☆     ☆     ☆   ©Myles Aronowitz 2014 声変わりという不可避な壁 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。