かれこれ20年ほど前になるでしょうか。友人の紹介で、ぼくは矢野宏さんとご縁を持つことができました。彼は正真正銘、現役のジャーナリストです。
友人として、呑み仲間として、ぼくの悩み事の相談者として、そしてぼくが非常勤講師で担当している関西大学社会学部マスコミュニケーション学専攻ジャーナリスト養成プログラム(JP)の“相方”として、おつき合いしているお人です。
矢野さんは「反戦」「差別」「人権」を旗頭に、大阪から発信しているジャーナリスティックな月刊新聞『うずみ火』の代表を務めてはります。
非常に熱血漢で、ほんま、がんばってるな~と常々、感心しています。もちろん教え子にもすごく慕われてはります。しばしば酒に呑まれることがあるのをちと心配しておりますが……。
『うずみ火』ってどんな新聞なのか気になった人、まずは新聞うずみ火電子版を覗いてみてください。
その『うずみ火』で、ぼくが連載していた『スクリーン・ウォーズ』(反戦をテーマにした映画)と、その後、連載を続けている『ときめきシネマ 武部好伸のオススメ映画』(新作)の掲載分をこのブログで紹介してもいいですか~と打診したところ、「いいですよ」と快諾してくれはりました。
ということで、これから時々、それらの映画エッセーを載せます。前置きが長くなりましたが、最初は2007年1月号に掲載されたフランス映画『シェルブールの雨傘』~♪
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今年はどんな映画と巡り合えるのやら……。お正月にあれこれと思案していると、なぜかひと昔前のフランス映画を観たくなってきました。それも恋愛ドラマを。というわけで、DVDでほんとうに久しぶりに『シェルブールの雨傘』(1964年)を観賞しました。
1950年代後半、北フランスの港町シェルブールを舞台に、傘屋の娘ジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)とガレージで働く青年ギー(ニーノ・カステルヌオーヴォ)との悲恋を切々と綴った物語です。
セリフをすべて歌でやりとりする映画史上かつてない大胆な試みのミュージカル。いかにもフランス映画らしい小粋な世界に、ぼくはどっぷり浸りました。まだ21歳といううら若きドヌーヴの可憐さと初々しさがたまらない~♪
この映画にも戦争が大きな影を投げかけていました。ある日突然、ギーの元に召集令状が舞い込んだのです。アルジェリア独立戦争(1954~62年)への出征。2年間の兵役生活を送らねばなりません。愛し合う若いふたりには気の遠くなるような長さ……。入隊の前夜、ふたりは永遠の愛を誓って一夜をともにします。
しかしギーが戦地へ渡ってから手紙が一通届いたのを最後に、音信が途絶えました。彼の子を宿していたジュヌヴィエーヴは、ギーが戦死したものと思い込み、かねてより親切にしてくれる宝石商の中年男性に嫁いだのです。事情をすべて承知したうえでの結婚でした。
3年の時が流れた。クリスマス・イヴの夜、国道沿いのガソリンスタンドで、ふたりは偶然再会。ギーは復員していたのです。しかも結婚し、一児のパパになっていた~! 互いの幸福を尊重し合って、言葉も交わさずに別れるふたり……。その姿が無性に哀しかった。
よくある戦争悲話ですが、ふたりの愛が驚くほどピュアだっただけに、ラストシーンが強烈に胸に突き刺さります。もし戦争がなければ……。ギーも、ジュヌヴィエーヴもきっとそう思ったにちがいありません。
4年前、ぼくはシェルブールを訪れました。映画のような傘屋はなかったけれど、街全体に切ない主題歌が流れているような印象を受けました。
あゝ、可憐なドヌーヴ、『シェルブールの雨傘』~♪
投稿日:2009年5月27日 更新日:
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