なかなか骨太な社会派の映画が公開されます。
『オレンジと太陽』
オススメです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
児童移民。
子供を強制的に海外へ移送すること。
民主国家を誇る英国で約350年間もこんな非人道的なことが行われてきた。
その「負の遺産」を1人の女性の奮闘という形であぶり出す。
「私が誰なのか調べてほしい」。
夜半の街で、ソーシャルワーカーのマーガレット(エミリー・ワトソン)が見知らぬ女性から声をかけられる。
彼女は児童養護施設に入っていた4歳の時、船に乗せられ、オーストラリアへ送られたという。
ここから主人公の試練を伴う独自調査が始まる。
英豪両国を行き来し、大人になった被害者の支援と肉親探しに奔走。
同時にその実態を暴いていく。
1994年、マーガレットが自身の体験をまとめた著書『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』を出版し、英豪の国民を震撼させた。
映画はそれを忠実に映画化したものだ。
児童移民の背景には、英国の植民地(後の英連邦諸国)に純潔の英国人を“移植”し、帝国の維持に貢献させる狙いがあったという。
その国策に身寄りのない無垢な子供たちが利用された。
後半、オーストラリアに渡った彼らの悲劇的な運命が浮き彫りにされる。
人権無視の蛮行。
政府の他、各種教団や慈善団体が関与していたのがやるせない。
監督は本作でデビューしたジム・ローチ。
名うての社会派ケン・ローチ監督の息子だ。
親と同様、ドキュメンタリー風味を添えて物語を引っ張っていく。
てっきり過去の忌まわしい出来事を告発・断罪するものと思いきや、そうではなかった。
肉親と再会できた人たちの喜びと戸惑い、叶わなかった人たちの無念さを如実に伝えていた。
つまりアイデンティティー(自己存在)を求める人間の素なる気持ちを映像に焼き付けた。
海外に運ばれた子供は総計約13万人。
ズシリと胸に響いた。
1時間46分。
★★★★
☆19日から大阪・梅田ガーデンシネマほかで公開
(日本経済新聞2012年5月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
児童移民の実態に迫る~イギリス映画『オレンジと太陽』
投稿日:2012年5月19日 更新日:
執筆者:admin