英国を代表する名優コリン・ファースが孤高のヨットマンに扮する海洋ドラマ。
てっきり男のロマンをテーマにした冒険映画と思いきや、全く想定外の展開。
実話と知って驚いた。
1968年、英国で単独無寄港世界一周ヨットレースが開催され、脱サラの起業家ドナルド(ファース)が参加した。
独自開発の船舶用測定器が売れず、金銭的に困窮する中、賞金目当てで出場を決意したのだ。
素人ヨットマンとあって、マスメディアに注目され、時の人になっていく。
さらに資産家からの投資話が絡み、どんどん大騒ぎに。
その翻弄される様が何とも滑稽である。
ドナルドは3人の幼い子を持つ父親。
レース出場に反対する愛妻クレア(レイチェル・ワイズ)との微妙な心模様が浮き彫りにされるにつれ、家族の物語であることに気づかされる。
ヒーローになって妻子を喜ばせ、国民の期待に応えたい。
失敗続きの男が今こそ再生できると思い、自分で設計したヨットで出航する姿には共感できる。
海上に出てからは一人劇。
トラブル続出で孤軍奮闘の主人公と熱狂の本国との対比、彼の武勇伝を書く新聞記者(デヴィッド・シューリス)との通信のやり取り……。
メリハリをつけ、飽きさせなかった。
やがてドナルドはとんでもない行動に出て、映画の様相が激変する。
ジェームズ・マーシュ監督は苦悶する彼に肉迫するも、この重要なシークエンスの描き方がやや単調で弱かった。
ファースの演技は申し分ない。
チャレンジ精神、見栄、弱音、偽善性、家族愛……。
すべての面において完璧に演じ切った。
孤愁が似合う男の日焼けした顔が絵になっていた。
一介の庶民が大舞台に立たった時の身の振り方。
そこに人間の本性が垣間見られる。
その意味で濃厚なヒューマン・ドラマだった。
1時間41分
★★★(見応えあり)
☆大阪ステーションシティシネマ、京都・TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸ほかで公開中
(日本経済新聞夕刊に2019年1月11日に掲載。許可のない転載は禁じます)
武部先生、こんばんは。
海外のヨット映画は、よい作品が多いですね。
中でも『ウインズ』(DVD・Blu-ray化して~!)が大好きで、『白い嵐』も感動でした。
『喜望峰の風に乗せて』 も期待大で、ぜひ観たいです。
百々之助さま
メッセージ、ありがとうございます。返信が遅れて申し訳ございません。
ヨット映画、ぼくも好きですよ。
『喜望峰の風に乗せて』はかなり変化球ですが……(笑)。