熱きエネルギーが炸裂するアウトロー映画。
父子のような刑事コンビの捜査を介して暴力団抗争を描き上げる。
映画の醍醐味を存分に満喫できる娯楽大作だ。

(C)「孤狼の血」製作委員会
原作は作家、柚月裕子がヤクザ映画の金字塔「仁義なき戦い」(1973年)に触発されて編んだ同名小説。
それを実録路線に定評のある、今や絶好調の白石和彌監督が濃密に映画化した。
暴力団対策法成立直前の88年、広島の地方都市でヤミ金融の社員が行方不明になる。
その事案に端を発し、組織の対立がにわかに際立ってくる。

(C)「孤狼の血」製作委員会
冒頭の豚小屋での暴行シーンは目を背けたくなるほど凄惨。
ここまで活写するか!
それが妥協を許さない本作のテイストなのだ。
暴力団担当のベテラン刑事、大上のダーティーな振る舞いがさらに拍車をかける。

(C)「孤狼の血」製作委員会
「警察は何をしてもええんじゃ」と組員顔負けの無軌道な行動を貫く。
この男に扮した役所広司の怪演に圧倒されっぱなし。
猛烈に男臭く、ぎらついた存在感は半端ではない。

(C)「孤狼の血」製作委員会
そんな大上の相棒が大学新卒の日岡。
正義感に燃える生真面目な青二才で、終始、先輩刑事に振り回される。

(C)「孤狼の血」製作委員会
役所に必死に食い下がる松坂桃李のひたむきな演技も評価したい。
情報入手のためには手段を選ばない大土に日岡が反発しつつ、次第に傾倒していく。

(C)「孤狼の血」製作委員会
この絡みを軸に加速度的に深化する物語がたまらなく面白い。
登場人物が多く、人間関係もやや複雑。
しかしこなれた脚本(池上純哉)と押しの強い演出がドラマをきちんと収斂させた。
クラブのママの真木よう子、暴力団側の石橋蓮司、江口洋介、竹野内豊、ピエール瀧……。

(C)「孤狼の血」製作委員会

(C)「孤狼の血」製作委員会
錚々たる脇役陣。彼らの毒気が絶妙なスパイスになっていた。
暴力、エロス、怒号。
昭和の匂いを充満させた稀代のハードボイルド映画。
何回でも観たくなった。
2時間6分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆12日から全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2018年5月11日に掲載。許可のない転載は禁じます)
『狐狼の血」本当に面白そうですね。是非観に行きたいです。
「父子のような刑事コンビ」といえば黒澤明の『野良犬』がありましたね。
黒澤明の『酔いどれ天使』で、闇市のバーのカウンターで山本礼三郎のヤクザの親分が三船敏郎とウイスキーを飲みながら語りあってるシーンが強く印象に残っています。
あの小道具のウイスキーはどこのウイスキーなのでしょうか? ちょっと気になります。闇市時代に流通していたウイスキーという点からも。
MSさん、コメント、ありがとうございます。
『酔いどれ天使』に出てくるウイスキーはニッカの特級です。
拙著『ウイスキー アンド シネマ2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)に詳しく書かせてもらっています。