アメリカは、言わずと知れた資本主義国家です。その根幹を見据えるドキュメンタリー映画『キャピタリズム マネーは踊る』がいま公開されています。
いろんな意味でかなり面白いです。以下、ぼくの映画エッセーを載せます。
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「金を返せ!」。マイケル・ムーア監督の怒りが渦巻いていた。
昨秋来の世界同時不況の原因を作りながら、その後も私利私欲に走るウォール街の金融機関の役員を税金泥棒呼ばわりし、逮捕しようとするのだから。シニカルな笑いを誘うパワフルな行動力に脱帽!
銃社会をえぐった「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)、対テロ戦略を露呈させた「華氏911」(04年)、医療問題に迫った「シッコ」(07年)。
こうしたドキュメンタリー映画を通して、米社会の恥部・暗部をあぶり出してきたムーア監督が、今回挑んだテーマは資本主義とカネ。
何と壮大な~! 自ら集大成と位置づける。撮影開始後に金融危機が起きたという。
住宅ローンの遅延で自宅を追われる人、その裏で利益を上げる悪徳不動産業者、突然のリストラに戸惑う工場労働者、低賃金に甘んじるパイロット……。
日本と状況が異なる点が多いけれど、次々に示される実態は決して無縁ではない。
圧倒的多くの国民に犠牲を強いる歪んだ資本主義に疑問を投げかけ、格差社会が広がる現状から民主主義にまで言及し、金融危機のカラクリを暴いてみせる。
話の展開は強引とはいえ、お家芸の挑発的な突撃取材に拍車がかかり、加速度的に勢いが増す。気がつけば、エンディングといった具合。
一番印象深かったのは、専門家ですらデリバティブ(金融派生商品)を正確に説明できないシーン。得体の知れない金融経済の一面を垣間見た気がした。
そして金儲けのためには弱者を食い物にする人間の欲深さを改めて実感させられた。
全てシロクロはっきりとつけ、多分に恣意的で、娯楽色が強い。だから非常にわかりやすい。この監督の常套手段だ。それを承知の上で観てほしい。2間7分。★★★★(見逃せない)
(日本経済新聞2009年12月4日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
キャピタリズムのHP
『キャピタリズム マネーは踊る』~マイケル・ムーアの怒り
投稿日:2009年12月7日 更新日:
執筆者:admin