行き場のない怒りや喪失感を抱いたとき、それをどこに向ければいいのか。
人間の本質を突いたテーマに本作が深く斬り込んだ。
犯罪被害者遺族の心情と行動を独特な視点から見据えた極上のサスペンスだ。
アメリカの片田舎。
寂れた道路沿いにある3つの大きな立て看板に地元警察署を批判するメッセージが現れた。
真っ赤な地に黒い文字。
何とも挑発的である。
思春期の娘を殺された母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が捜査の怠慢に苛立ち、広告会社に依頼したのだ。
穏やかな町に激震が起こる。
英国人のマーティン・マクドナー監督が自ら執筆したオリジナル脚本を実に手堅い演出で映像化した。
最後まで飽きさせない。
気丈で頑固な主人公が警察署長ウィロビー(ウディ・ハレルソン)にガチンコで対峙する。
頭に巻いたバンダナと青い作業着は戦闘服のようにすら思える。
署長が「悪役」になるのかと思いきや、そうではなかった。
家族思いの正直な人情家で、住民の信望も厚い。
しかも末期ガンを患い、余命いくばくもない。
そんなウィロビーを容赦なく断罪するミルドレッド。
住民から村八分にされ、敵視される中、孤軍奮闘する。
彼女はしかし、単なる激情家でないこともわかってくる。
署長を敬愛する暴力的な部下ディクソン巡査(サム・ロックウェル)も心にトラウマを抱えている。
登場人物がみな複雑なキャラクターなのが本作の持ち味。
さらに極めてシリアスな内容なのに、時折、コミカルな場面が挿入される。
それが緊張感をほぐす絶妙な緩衝材となっていた。
毒舌とユーモアを巧みに操るマクドーマンドの独壇場。
この役どころ、彼女以外には考えられない。
意地と執念の母親像を際立たせ、やがて犯人探しへと流れが変わる。
しなやかな展開にうならされた。
1時間56分
★★★★(見逃せない)
☆2月1日からTOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2018年1月26日に掲載。許可のない転載は禁じます)