この映画の登場人物すべての気持ちが痛いほどよくわかりました。
はて、自分ならどうする??
最後まで自問しながら観続けました。
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逆境をいかに乗り越えるか。
この大きなテーマを、1人の女性の2日間にわたる行動を通して描き切った。
解雇という切実な問題に焦点を当てた実にスリリングな映画。
現実を直視する飾り気のないストレートな演出が光る。
監督はベルギーのジャン・ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。
市井の人たちの暮らしぶりを感傷抜きにドキュメンタリータッチで追うスタイルは、本作でも踏襲している。
サンドラはソーラーパネル工場で働く2児の母親。
心身の不調で長らく休職していたが、ようやく復職の目途が立った。
その矢先、解雇を言い渡される。
再雇用するため会社側が突きつけた条件がこれ。
16人の同僚の半数以上からボーナス受給拒否の承諾を得るというもの。
金か職場仲間か、同僚たちは究極の選択を迫られる。
彼女は夫に連れられ、週末に1人1人彼らを説得して回る。
何とも気の重い訪問だ。
みなサンドラの状況を酌みとってはいるが、経済的に苦しく、情だけでは済まされない。
そのことを彼女自身もよく理解している。
訪問先で感情的にならず、相手に同じ文言を繰り返し伝えるサンドラ。
その誠実でひたむきな姿を手持ちカメラが肉迫する。
終始、淡々と撮り続ける。
だからこそ、過酷な現実に向き合う人間の強さと弱さが伝わってくる。
サンドラはごく普通の女性だ。
そんな主人公をノーメイクの等身大で演じたマリオン・コティアールが素晴らしい。
心の機微をさり気なく表現する繊細な演技にうならされた。
成果主義が「弱者」を切り捨てる現状をあぶり出した。
しかし労働問題にせず、人間の尊厳を謳い上げた点を高く評価したい。
そしてダメ元でもまずは行動に移すことの大切さを改めて実感した。
はて、あなたならどうする?
1時間35分
★★★★(見応えあり)
☆23日からテアトル梅田、30日から京都シネマとシネ・リーブル神戸で公開
(日本経済新聞2015年5月22日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)