多数の人を救うため、目の前にいる1人を犠牲にできるのか--。
IT戦争の闇を浮かび上がらせ、究極の選択を迫る。
緊迫した映像と登場人物の会話が一体化したリアルな世界。
こんな戦争映画、観たことがない。
ケニア・ナイロビの隠れ家に潜む凶悪なテロリスト集団。
その殲滅を目指す英米合同軍事作戦の全容が詳細に描かれる。
指揮官の英国軍大佐パウエル(ヘレン・ミレン)がベンソン国防相(アラン・リックマン)と協力し、米国ネバダ州にある米軍基地と連絡を取り合う。
そこでドローン偵察機や無人航空機が操作されている。
上空6000㍍から「標的」の動きを鮮明に捉える。
さらに小鳥や虫に似せた超小型ドローンで室内の様子を撮影する。
ここまで技術が進歩しているとは驚きだ。
薄暗い作戦室、ロンドンの内閣会議室、米軍基地、ハワイの画像解析室……。
世界をまたぎ、全てスクリーン上でやり取りされる。
その場面転換が小気味よい。
現地の工作員以外はみな安全な場所に身を置いている。
どこかゲーム感覚に浸っているようで、その様が非常に不気味。
これが現代の戦争の一面なのだろう。
やがて1人の少女が隠れ家の傍でパンを売り始める。
ここからが見せ場だ。
ピンポイント攻撃とはいえ、彼女が死傷する可能性が十分ある。
さぁ、どうする。
善と悪、倫理観、罪悪感、忠誠心……。
各人の胸中に湧き立つ想念がぶつかり合う。
任務に忠実な大佐とミサイル発射を命じられるドローン操縦士ワッツ中尉(アーロン・ポール)の対比が白眉だった。
スリル&サスペンスのドラマとしても見応えがある。
ギャヴィン・フッド監督の緻密、かつ濃密な演出が物語の空気を引き締めた。
女性を主役に配したのは、戦争は男だけのものではないからだ。
ヘレン・ミレンの冷徹ながら、ときに人情味をのぞかせる軍人役はまさに適役。
英国の亡き名優アラン・リックマンの最後の出演作(遺作は、昨年7月公開の『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(2016)、声のみ)
1時間42分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆14日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2016年1月13日に掲載。許可のない転載は禁じます)