性的少数者(LGBT)の人たちが少しずつ社会に受け入れられつつある。
米国で昨年6月、最高裁で同性婚を認める判決が出された。
本作はその裁判に影響を与えたといわれる実話を映画化したものだ。
冒頭はベテラン女性警察官ローレル(ジュリアン・ムーア)の張り込み現場のシーン。
一瞬、犯罪アクションかと思わせる。
ここでやり手の刑事であることを印象づけ、一転、恋愛ドラマへと変わる。
彼女の恋人は自動車整備工をしている年下の女性ステイシー(エレン・ペイン)。
2人は郊外の一軒家でひっそりと暮らす。
ここに至るまでの過程がやや冗漫に思えたが、本筋への布石と考えれば納得できる。
ローレルは長年の相棒、デーン刑事(マイケル・シャノン)にすら自分がレズビアンであることを明かしていない。
保守的な警察の空気が重くのしかかる。
後半、一気に社会性を帯びてくる。
夫婦ではないカップル。
それゆえ社会保障を受給できない現実に直面する。
ゲイの活動家がデモを敢行したりして、いつしか政治的な事態へと発展していく。
予期せぬ荒波に呑まれながらも、愛の絆を確かめ合う彼女たちのピュアな気持ちが何ともいじらしい。
「結婚という制度ではなく、平等な権利が欲しいだけ」
ローレルの悲痛な叫びが胸を突く。
この言葉が映画のテーマともいえる。
ややこしい物に蓋をしがちな世情に風穴を開けようとする姿勢が通底しており、それがラストで見事に昇華する。
『アリスのままで』(2014年)で認知症の女性に扮し、アカデミー賞主演女優賞を受賞したムーアの演技は堂々たるもの。
常に高い倫理性を持ち続ける主人公になり切っていた。
2人に寄り添うデーン刑事の存在が大きい。
この人物こそ希望の光だった。
監督はピーター・ソレット。
1時間43分
★★★★(見逃せない)
☆26日~なんばパークスシネマほか全国で公開
(日本経済新聞夕刊に2016年11月25日に掲載。許可のない転載は禁じます)