武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

心の闇を容赦なくあぶり出す~日本映画『怒り』(17日公開)

投稿日:

信じることの難しさ、増長する不信感、信じられなくなった時のやるせなさ(罪悪感?)。

 

対人関係の根底を揺るがすテーマにミステリー仕立てで斬り込んだ。

 

心の闇に容赦なく迫る映像に終始、気圧される。

(C)2016映画「怒り」製作委員会

(C)2016映画「怒り」製作委員会

原作者が吉田修一、監督・脚本が李相日(リ・サンイル)。

 

善と悪の境目に迫った『悪人』(2010年)の強力コンビが6年ぶりに再びタッグを組んだ。

 

東京の住宅街で起きた夫婦惨殺事件。

 

家の壁に残された「怒」の血文字が狂気を孕ませ、ただならぬ気配を放つ。

 

この鮮烈な冒頭が映画の通奏低音となり、1年後、東京、沖縄、千葉に3人の青年が現れる。

 

東京---。大手通信会社に勤務するゲイの優馬(妻夫木聡)がクラブで引っかけた直人(綾野剛)。

(C)2016映画「怒り」製作委員会

(C)2016映画「怒り」製作委員会

 

沖縄--。東京から引っ越してきた女子高生の泉(広瀬すず)が無人島で出会ったバックパッカーの信吾(森山未來)。

(C)2016映画「怒り」製作委員会

(C)2016映画「怒り」製作委員会

千葉--。漁港で働く父親(渡辺謙)に育てられた1人娘、愛子(宮﨑あおい)と心を通わせる哲也(松山ケンイチ)。

(C)2016映画「怒り」製作委員会

(C)2016映画「怒り」製作委員会

群像ドラマのようだが、3つの話に関連性がなく、それぞれ独立し、並列的に描かれる。

 

しかし「殺人犯」という共通認識が3話をイメージとして関連づける。

 

そこが本作の特異なところ。

 

3人はみな身元不詳で、どことなく怪しい。

 

顔立ちが異なっているのに、警察の手配写真公開後、3者3様、犯人像に似てくる。

 

この心理マジックが不協和音を伴い、物語の要となる。

 

誰が犯人なのか。緊張感を一気に高め、結末へとなだれ込む展開は見事としか言いようがない。

 

ワンカットごとに伝わる凄まじいエネルギー。

 

李監督の演出の熱量は半端ではない。

(C)2016映画「怒り」製作委員会

(C)2016映画「怒り」製作委員会

何に対しての怒りなのか。

 

簡単に答えが出ない。社会性をも内包した、そんな深奥な人間ドラマだった。

 

2時間22分

 

★★★★★(今年有数の傑作)

 

☆17日~全国東宝系にてロードショー

 

(日本経済新聞夕刊に2016年9月16日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。