大学時代、ジャズとともにブルースをよく聴きました。いまでも大好きです。
単調ながらも深みのあるブルースの旋律を耳にすると、そのサウンドに身も心ものめり込んでしまうことがあります。
そのブルースを、アメリカ南部の黒人音楽から世界へひろめたのがシカゴのチェス・レコードです。
先日、ぼくが所蔵するレコードを整理していたら、『THE BEST OF MUDDY WATERS Vol.2』というチェス・レコードのアルバムが出てきました。大学2年のときに買ったのを覚えています。
Vol.1も一緒に購入したはずなのに、いくら探しても見当たりませんでした。海外旅行の資金調達のため、売ったのかもしれません。残念なことです。
このチェス・レコード会社の歩みを描いたアメリカ映画『キャデラック・レコード』が公開されています。以下、日経新聞に載ったぼくの映画レビューをご紹介します。
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シカゴのチェス・レコードと言えば、ポピュラー音楽の原点アフリカ系アメリカ人(黒人)のブルースを育んだレコード会社として知られる。
その盛衰を、濃厚なサウンドとは対照的にやや恬淡と描いていた。
この会社は1950年、ポーランド移民のチェス兄弟によって設立された。
映画ではしかし、兄レナード(エイドリアン・ブロディ)しか登場しない。
南部出身のミュージシャン、マディ・ウォーターズ(ジェフリー・ライト)がエレキギターをかき鳴らし、ハーモニカ奏者リトル・ウォルター(コロンバス・ショート)と演奏しているのをレナードが見て、レコード契約を結ぶ。
その邂逅が全ての始まり。
それは新しい音楽の誕生だった。洗練されたシカゴ・ブルース。
圧倒的な歌唱力を持つハウリン・ウルフ(イーモン・ウォーカー)らが加わり、一大ブームに。
そしてチャック・ベリー(モス・デフ)がブルースとカントリーを融合させたロックン・ロールを世に放つや、白人の世界に飛び火し、英国のローリング・ストーンズもスタジオを訪れる。
後半はR&Bの女性歌手エタ・ジェイムズ(ビヨンセ・ノウルズ)の存在感が際立つ。
現代の歌姫ビヨンセが情念をたぎらせて謳い上げる名曲「アット・ラスト」にぼくは聴き惚れた。
こうしたポピュラー音楽の潮流を、黒人女性監督ダーネル・マーティンは生真面目なほど忠実に焼き写す。もう少し人物に肉迫してほしかったが……。
黒人への偏見を持たないレナードはミュージシャンを家族と思い、ヒット曲を出せば、高級車キャデラックを与える。
白人とはいえ、恵まれた立場ではなかったユダヤ系という出自が影響していたのだろうか。
会社は70年代に幕を閉じる。文化を発信することの意味を考えさせられた。1間48分。★★★(見応えあり)
☆関西では、梅田ガーデンシネマほかで公開中
(日本経済新聞2009年9月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
『キャデラック・レコード』~ブルースを育んだレコード会社の足跡
投稿日:2009年9月22日 更新日:
執筆者:admin