武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

「危うい」カップルの痛みを見据える~『オーバー・フェンス』

投稿日:

『海炭市叙景』(2010年)、『そこのみにて光輝く』(14年)に続く亡き作家、佐藤泰志(1945~90)の小説を映画化した三部作の最終章。

 

ぎこちなく生きるカップルの痛みを慈愛の眼差しで見据え、素直になれない揺れ動く心情を見事に映像に焼きつけた。

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 

監督は山下敦弘。

 

前2作を撮った大阪芸大の先輩、熊切和嘉監督と同期の呉美保監督が共に高評価を得ただけに、満を持して臨んだ。

 

作風には気負いがなく、存外に軽やかで、後味も実に爽やかだった。

 

妻子と別れ、東京の建設会社を辞めた義男は故郷の函館に戻り、職業訓練校に通っている。

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 

生気が感じられず、惰性で生きる、そんな男をオダギリジョーが好演。

 

まさに適役といえよう。

 

訓練校の胡散臭い生徒(松田翔太)を介して聡(さとし)と出会う。

 

男ではない。

 

鳥の求愛ポーズをまねたり、突然、キレたりする激情的な女性。

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

ℂ 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 

かなり難しい役どころを蒼井優が果敢にチャレンジした。

 

聡の不思議なオーラに義男が圧倒される姿が強調される。

 

過去を引きずる未練たらしい感傷を彼女が容赦なく剥がしていく過程が映画の軸となっていた。

 

2人の心が1つになるシーンが素晴らしい。

 

誰もいない夜の動物園。

 

白頭鷲の羽が天空から無数に舞い降りてくる。

 

恋に落ちた瞬間をかくもシュールな画像で描き切った。

 

牽引役は聡で、義男は常に受け身。

 

それでいて上目線で彼女を見る。

 

「そんな目で見ないで」という悲痛な言葉が胸に重く残る。

%e3%82%aa%e3%83%bc%e3%83%90%e3%83%bc%e3%83%bb%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%b3%e3%82%b9%ef%bc%88%ef%bc%95%ef%bc%89

 

訓練校の生徒との触れ合い、教官に目をつけられた劣等生(満島真之介)への同情、別れた妻(優香)との再会……。

 

脇筋をきちんと固めた上で恋の顛末が綴られる。

 

全編を包み込む温かいタッチが心地よい。

 

2人が惹かれ合う心の中枢を山下監督が丁寧にすくい取っていた。

 

渋みあふれる恋愛映画だった。

 

1時間52分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆テアトル梅田などで公開中

 

(日本経済新聞夕刊に2016年9月23日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

関経連の会誌「経済人」に載りました~(^_-)-☆

関経連の会誌「経済人」に載りました~(^_-)-☆

関西経済連合会から会誌「経済人」の7月号が送られてきました。 さる4月22日、同連合会の評議員会でお話しさせていただいた『映画のはじまり、みな関西』の講演要旨が写真付きで掲載されてありました~&#x1 …

塚口サンサン劇場を〈裸〉にした本『愛される映画館のつくりかたー塚口サンサン劇場の軌跡と奇跡ー』が刊行されました~!

塚口サンサン劇場を〈裸〉にした本『愛される映画館のつくりかたー塚口サンサン劇場の軌跡と奇跡ー』が刊行されました~!

阪急神戸線塚口駅の南側にある塚口サンサン劇場(兵庫県尼崎市)。 そこは、マサラ上映、爆音上映、コスチューム入場、花火大会などユニークなイベントをどんどん打ち出している、全国的にも注目株の映画館です。 …

滋味深い1日のドラマ~『朝食、昼食、そして夕食』

滋味深い1日のドラマ~『朝食、昼食、そして夕食』

こんな映画、大好きです。   人生が凝縮しているから。      ☆     ☆     ☆     ☆     ☆ ごく普通の1日にかくも多彩なドラマが詰まっていようとは……。 …

新刊『ほろ酔い「シネマ・カクテル」』(たる出版)の現物が届きました!

新刊『ほろ酔い「シネマ・カクテル」』(たる出版)の現物が届きました!

新刊『ほろ酔い「シネマ・カクテル」』(たる出版)の現物が届きました〜❗ 手触りといい、カバー表紙のデザインといい、ほんにええ塩梅〜😀 通算25作目なので、ちょっと感無量で …

浮遊感漂う岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』

浮遊感漂う岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』

©RVWフィルムパートナーズ   ごく平凡な女性が摩訶不思議な世界に引き込まれる「現代の寓話」といってもいい。   内容は極めてシリアスで、スリリングな場面が散りばめられているのに …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。