作家、横山秀夫の推理小説を原作にしたテレビドラマの映画版。
「昭和」を引きずる男たちの苦悩を濃密にあぶり出し、一級の犯罪ミステリーに仕上げた。
銀幕を覆う重々しい空気感が映画としての風格を与えていた。
わずか7日間だけの昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件。
身代金の受け渡し場所が次々と変えられ、被害者の父親、雨宮(永瀬正敏)と三上(佐藤浩市)ら捜査陣が翻弄される。
緊迫感溢れる映像とスピーディーな展開で冒頭からぐいぐい引きずり込む。
プロローグとしては申し分ない。
悲惨な結末を迎え、迷宮入りが必至となったこの事件は「64(ロクヨン)」と呼ばれた。
13年後、刑事から警務課の広報官に転身した三上の動きを軸に本筋が始まる。
ドラマではピエール瀧が扮したこの中年男を佐藤が好演。
メリハリを効かせ、そこはかとなく人生の悲哀をかもし出していた。
県警記者クラブと広報室、刑事部と警務部、三上と上司の警務部長。
こうした〈対立の構図〉の中で板挟みになる主人公の奮闘ぶりに焦点が当てられる。
真っすぐな性格ゆえにジレンマを抱え込むところが大きな見どころだ。
次々と難題が降り注ぎ、ドラマチックに物語が進展する。
そんな状況下、三上と雨宮が寄り添う姿が非常に印象深い。
互いに娘を失った心情を分かち合う2人。
横並びに座り、胸中を吐露する場面は白眉だった。
違和感を覚えたのが記者の描き方。
大声を張り上げ、警察官を恫喝する。
瀬々敬久監督は記者との対峙が重要と考えたのだろうが、あそこまで過剰演出しなくてもよかったと思う。
終盤、「64」を模倣した誘拐事件が起きる。
それをスリリングに見せ切り、ツボを押さえて映画は終わる。
「昭和」の残照が心に突き去った。
前篇2時間1分
後編1時間59分
★★★★(見逃せない)
☆前篇は全国東宝系にて公開中
☆後編は6月11日からロードショー
(日本経済新聞夕刊に2016年5月6日に掲載。許可のない転載は禁じます)