世界最高峰エヴェレスト(8848㍍)を舞台に、山にとり憑かれたクライマーとその男に魅せられたカメラマンの動きを追う。
なぜ山に登るのか。
その答えをドラマチックに導き出す。
冒頭が面白い。
1924年、エヴェレスト登頂に挑み、山頂付近で遭難した英国の登山家ジョージ・マロリーが使っていたと思われるカメラがネパール・カトマンズの骨董店で売られていた。
そのカメラを介して、山岳撮影家の深町(岡田准一)と数年前に消息を絶った登山家、羽生(阿部寛)が邂逅する。
2人とも極めて個性が強い。
深町は特ダネを追う新聞記者さながら、何か金になる題材がないかと目をぎらつかせている。
そんなやさぐれ男に扮した岡田の演技が妙に新鮮に感じられた。
一方、羽生は「山をやらないなら死んだも同然」と公言する根っからの山男。
寡黙で人嫌い。
孤高の登山家になりきった阿部の仙人のような風貌が際立つ。
この男がどうしてネパールの片田舎に引きこもっているのか。
その理由を深町が探るうち、羽生のザイルパートナーだった亡き青年の妹(尾野真千子)やライバルの登山家(佐々木蔵之介)らが絡み、ドラマが凝縮していく。
クライマックスは羽生が冬季に南西壁単独無酸素登頂に挑戦するシーンだ。
標高5200㍍の地点で撮られた本物の映像に圧倒された。
作家、夢枕獏の原作小説ではここまで描き切れなかった。
まさに映画力。
日本人で最多、7回のエヴェレスト登頂記録を持つ映像カメラマン村口徳行があますことなく自然の脅威を映し出す。
同時にそれに対峙する人間の野望もレンズで捉えていた。
平山秀幸監督の演出は安定感があり、申し分なかったが、マロリーのカメラの顛末にもう少し光を当ててほしかった。
「男の顔」が絵になる山岳映画だった。
2時間2分
★★★★(見逃せない)
☆12日からTOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2016年3月11日に掲載。許可のない転載は禁じます)