やはり見ごたえのある映画だった。
家族と社会を見据えるこの監督の眼差しは鋭い。
秀作です~(^_-)-☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
家族に潜む「闇」を題材にした社会派のミステリー&サスペンス。
主人公が取った行動をどう受け止めればいいのか。
善か悪かという二者択一の価値観では推し量れない深いテーマを突きつけてくる。
家庭内で派生したシリアスな問題を独特な鋭い観点から見つめるデンマークの女性監督スサンネ・ビアの新作。
今回は赤ちゃんに焦点を絞った。
湖畔の豪邸で優雅に暮らす刑事アンドレアスと美貌の妻アナの夫婦。
乳飲み子の息子のひどい夜泣きに悩まされてはいるものの、幸せそのものだ。
片や薬物依存と家庭内暴力が渦巻く、荒んだ生活に浸る前科者トリスタンとサネ。
汚物まみれの赤ん坊がトイレの床に放置されている光景は、目をそむけたくなるほど強烈だった。
全く対照的な2組の家族が、アンドレアスの息子の急死によって密接に関わってくる。
それも抜き差しならぬ局面に陥り、物語は一気に濃縮していく。
彼の下した決断は反倫理的なものなのか、それとも妥当性があるのか。
否定も肯定もせず、全て観る者の判断に委ねる。
そこにビア監督の狙いがある。
北欧の冷気が漂う中、二転三転する展開に目が離せない。とりわけドラマが動く夜の場面が秀逸。
不気味なモノクロ映像のように浮かび上がり、それが心象風景とも重なっていた。
本作で描かれているのは、一筋縄ではいかない人間の多面性である。
状況いかんで登場人物の顔が変わる。
自己中心的なトリスタンが「罠」にはめられた時には同情心すら抱いた。
だからこそ普遍的な親子の絆と母性愛がことさら際立つ。
アナとサネの母親としての切なる気持ちがじんわりと胸に染み入った。
突然、家庭が崩壊するという悲劇的な内容。
非常に重苦しい映画だが、希望を与えるラストに救われた。
1時間42分
★★★★
☆大阪ステーションシティシネマほかにて公開中
(日本経済新聞2015年5月15日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)