好きか嫌いか、はっきり差が出る映画だと思います。
ぼくははまった!
参ったなぁ、こんな映画を撮るなんて……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(C)2013 R.P. PRODUCTIONS – MONOLITH FILMS
ロマン・ポランスキー監督のマジックに酔わされた。
劇場の舞台で繰り広げられる妖しげな2人劇。
逐次、立場が入れ替わるスリリングな展開と危うさを伴った不穏な空気が映画に底知れぬパワーを与えた。
「マゾヒスト」の語源になった作家ザッヘル=マゾッホ(1836~95年)の自伝的小説をヒントに創作された戯曲の映画化。
10㍍四方の閉ざされた空間をたった1台のカメラで撮り切った。
薄ら寒い古びた劇場で、オーストリア=ハンガリー帝国時代の舞台劇「毛皮のヴィーナス」の主演を決めるオーディションが終わった。
該当者がおらず、不満げな演出家トマ(マチュー・アマルリック)が帰ろうとした矢先、無名女優が遅刻したと駆け込んで来た。
ヒロインと同じ名のワンダ(エマニュエル・セニエ)。
見るからに下品で、教養の欠けらも感じられない。
そんな彼女がトマを相手役に仕立て、強引に演技を始めるや、あっと驚く大変身を遂げる。
ここまでがプロローグ。
このあとドラマが濃厚にうごめく。
彼女は一体、何者なのだ。
目的は何なのだ。
謎めいた雰囲気を放ちながら、想定外の奇抜な世界が創出されていく。
演出家と俳優の関係だけでなく、現実と虚構の境すら曖昧模糊となる。
支配と服従が混在する後半は、愛憎劇のようでもあり、圧巻の一言に尽きる。
巧みな演出にただただ脱帽。
(C)2013 R.P. PRODUCTIONS – MONOLITH FILMS
ステージを動き回る2人をカメラは変に追い回すことなく、むしろ淡々と見据える。
それは人間の性(さが)をあぶり出そうとするポランスキーの透徹した眼差しのように思えた。
監督夫人のセニエが官能的で挑発的な演技を披露。
それがアマルリックのしなやかな動きと絶妙にマッチしていた。
彼がポランスキーの若かりしころと瓜二つなのが意味深だ。
本当によく似ている。
2人のセリフ回しも迫力満点。
80歳のポランスキー。
今年最後に極上の映画を観させてくれた。
1時間36分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆20日から大阪・テアトル梅田ほかで公開
(日本経済新聞2014年12月19日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)