たまにはこういうシブい映画もいい。
ぼくは大好きです。
仰々しい邦題から壮大な歴史スペクタクルを想起するかもしれない。
本作はそれを心地よく裏切る。
世界的に知られる4人の監督が個性豊かにポルトガルを斬ったオムニバス。
1143年に同国が誕生した時の都がギラマンイス。
昨年、その街が欧州文化首都に選ばれ、文化プログラムとして本作が企画された。
トップバッターは長年、ポルトガルに在住するフィンランド人監督アキ・カウリスマキ。
古都の旧市街にあるバーの店主の1日を一切、セリフなしで綴った。
民衆歌謡ファドの哀愁を帯びた調べと、この監督独特のとぼけた味わいが絶妙にマッチ。
何をしてもうまくいかない孤独な男が愛おしく思えてくる。
次の作品は一転、シリアス。
ポルトガル映画界の鬼才ペドロ・コスタ監督が独裁政権を倒した1974年の無血革命の裏面に迫った。
革命に関わったアフリカ移民と兵士の亡霊との会話劇。
それがエレベーター内で行われる。
やや難解だが、異色性が面白い。
第3話が隣国スペインから招かれたビクトル・エリセ監督のドキュメンタリー。
かつて栄華を極め、今や廃屋と化した紡績工場の元労働者たちの証言だ。
カメラを真正面に据え置き、ひたすら被写体に迫る手法は名作「マルメロの陽光」(1992年)を彷彿とさせる。
全盛期に食堂で撮影された彼らの過去の姿。
顔のクローズアップに人生そのものをかぶせる。
何てシブい演出なのだ。
トリは104歳、現役最高齢のポルトガル人監督マノエル・ド・オリヴェイラ。
同国発祥の地をコミカル風味に紹介し、本作を軽やかに締めくくった。
今年はポルトガル人による日本への鉄砲伝来470周年。
縁深い国を見据えた4作品から、熟成感を伴う濃厚な作家主義が伝わってきて、胸が熱くなった。
1時間36分
★★★(見応えあり)
☆21日から大阪・シネ・リーブル梅田で公開
(日本経済新聞2013年9月20日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)