この時期になると、戦争モノの映画がめっぽう増えてきます。
しかも、今年は戦後70年とあって、特に多いような気がしています。
この日本映画『日本のいちばん長い日』もそうです。
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70年前、戦争終結に向けた激動の日々を再現する。
本土決戦か、降伏か。
日本の命運をかけた国家中枢部の攻防をどう見るか。
映画というフィルターを通して現代史最大の出来事をまずは知ってほしい。
同名の岡本喜八監督作品(1967年)は、無条件降伏を盛り込んだポツダム宣言の受諾から天皇の玉音放送に至る24時間に絞った。
今回の原田眞人監督版はその4か月前、鈴木貫太郎(山﨑努)の首相就任時以降の動きにまで言及している。
戦争の早期終結を願う昭和天皇(本木雅弘)、その「聖断」の実現に奔走する鈴木首相、天皇の気持ちを察しつつ、徹底抗戦を主張する阿南陸相(役所広司)。
彼ら3人が軸となる。
その中で際立っていたのが天皇である。
昨年、公開された「昭和天皇実録」を参考にし、驚くほど人間的な姿が浮き彫りにされている。
周囲の者とのやり取りが実に興味深い。
確固たる決意を抱き、御前会議に臨む場面が、玉音放送の録音ともどもハイライトだ。
腹を据えた、それでいてゆとりを感じさせる本木の演技に瞠目した。
閣僚や天皇の動きをじっくり追った前半とは一転、陸軍の過激青年将校によるクーデター未遂が後半をテンポよく彩る。
リーダー的な畑中少佐(松坂桃李)の直情的な振る舞いに原理主義の恐ろしさを垣間見た。
結末は周知の事実だが、いかに着地させるのか、そこをサスペンス・タッチで引き込ませる。
各人の思惑がうごめく中、暗躍する内閣書記官(堤慎一)の「裏技」が光っていた。
原田監督は史実を重視しながら、鈴木首相や阿南陸相の私生活を盛り込み、公私両面を描いた。
ただ、国民の悲惨な状況を映さなかったのが大いに残念。
この映画を観て、改めて思った。
やはりもっと早く戦争を終わらせるべきだったと。
2時間16分。
★★★★(見逃せない)
(日本経済新聞2015年8月7日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)