甲子園。
高校球児にとっては、まさに晴れ舞台。
そこに数々のドラマが生まれます。
この映画で描かれた物語が実際にあってもおかしくないと思いました。
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青春の蹉跌。
一生悔やまれる苦い思い出を胸に秘めた元高校球児たちが「あの夏」に決着をつける。
35歳以上を対象にしたマスターズ甲子園へのチャレンジ。
親子愛と友情を絡めた泣かせる感動作だった。
作家、重松清が文芸雑誌に同名小説を連載。
それを大森寿美男監督が同時並行で脚本化し、映画製作に至ったという異色作。
マスターズ甲子園のスタッフをしている大学生の美枝(波瑠)が中年男の坂町(中井貴一)を訪ねる。
東日本大震災で命を落とした彼女の父親が高校時代に所属した野球部の主将だ。
坂町は離婚した妻の死去後、1人娘の沙奈美(門脇麦)と絶縁状態にあり、独り暮らしを続けている。
人生にくたびれ、覇気がない。
28年前、白球を追っていた日々が遠い過去に……。
美枝から大会への出場を勧められるも、すげなく断る。
ここまではよくあるパターンだ。しかし出場を辞退した本当の理由が判明するや、俄然、ドラマが輝き出す。
地方大会決勝戦の直前に起きた不祥事が部員たちに計り知れない楔を打ち込んでいた。
しかもその張本人が美枝の父親だった。
揺れ動く彼女と困惑する坂町との距離感が狭まっていくところが軸となる。
そこに元チームメイトの無念さや家族関係が描かれ、映像に厚みが増してくる。
亡父が年賀状に添えた「一球入魂」の熟語を幼かった美枝が「一球人魂」と読み間違える。
その賀状を一度も元部員に出せなかった痛切な想いを彼女が知っていくプロセスに涙する。
自分を信じて行動を起こせば、何らかの光明が見えてくる。そのことを大森監督が坂町に託し、終始、実直な演出を貫いた。
娘との顛末が最後まで気になる。
楽しみながら、それでいて真剣にプレーする元ナインの清々しい表情。
それを生み出した「甲子園力」を改めて実感させられた。
2時間
★★★★(見逃せない)
☆梅田ブルクほかで公開中
(日本経済新聞2015年1月16日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)