武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

「あの夏」に決着をつける~日本映画『アゲイン 28年目の甲子園』

投稿日:

甲子園。

 

高校球児にとっては、まさに晴れ舞台。

 

そこに数々のドラマが生まれます。

 

この映画で描かれた物語が実際にあってもおかしくないと思いました。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

                     (C)重松清/集英社 (C)2015「アゲイン」製作委員会

青春の蹉跌。

 

一生悔やまれる苦い思い出を胸に秘めた元高校球児たちが「あの夏」に決着をつける。

 

35歳以上を対象にしたマスターズ甲子園へのチャレンジ。

 

親子愛と友情を絡めた泣かせる感動作だった。

 

作家、重松清が文芸雑誌に同名小説を連載。

 

それを大森寿美男監督が同時並行で脚本化し、映画製作に至ったという異色作。

 

マスターズ甲子園のスタッフをしている大学生の美枝(波瑠)が中年男の坂町(中井貴一)を訪ねる。

 

東日本大震災で命を落とした彼女の父親が高校時代に所属した野球部の主将だ。

 

坂町は離婚した妻の死去後、1人娘の沙奈美(門脇麦)と絶縁状態にあり、独り暮らしを続けている。

 

人生にくたびれ、覇気がない。

 

28年前、白球を追っていた日々が遠い過去に……。

 

美枝から大会への出場を勧められるも、すげなく断る。

 

ここまではよくあるパターンだ。しかし出場を辞退した本当の理由が判明するや、俄然、ドラマが輝き出す。

 

地方大会決勝戦の直前に起きた不祥事が部員たちに計り知れない楔を打ち込んでいた。

 

しかもその張本人が美枝の父親だった。

 

揺れ動く彼女と困惑する坂町との距離感が狭まっていくところが軸となる。

 

そこに元チームメイトの無念さや家族関係が描かれ、映像に厚みが増してくる。

 

亡父が年賀状に添えた「一球入魂」の熟語を幼かった美枝が「一球人魂」と読み間違える。

 

その賀状を一度も元部員に出せなかった痛切な想いを彼女が知っていくプロセスに涙する。

 

自分を信じて行動を起こせば、何らかの光明が見えてくる。そのことを大森監督が坂町に託し、終始、実直な演出を貫いた。

 

娘との顛末が最後まで気になる。

 

楽しみながら、それでいて真剣にプレーする元ナインの清々しい表情。

 

それを生み出した「甲子園力」を改めて実感させられた。

 

2時間

 

★★★★(見逃せない)

 

☆梅田ブルクほかで公開中

 

(日本経済新聞2015年1月16日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ミシェル・ファイファーに惚れていました~♪♪

ミシェル・ファイファーに惚れていました~♪♪

巷にジャズ・バーがあるように、バーのゆったりとした静謐な空間には大人のサウンドともいえるジャズがよく合いますね。 しがないジャズ・ピアニストの兄弟(ボー&ジェフ・ブリッジス)と美人シンガー(ミシェル・ …

知人の映画研究家、吉田はるみさんが『アリスのいた映画史』(彩流社)を出版!

知人の映画研究家、吉田はるみさんが『アリスのいた映画史』(彩流社)を出版!

アリス・ギイ——。 世界初の女性映画監督なのに、彼女の存在も、どんな作品を撮ったのかも、ほとんど知られていません。 なぜか――?? ぼくの知人の映画研究家、吉田はるみさんがそこにメスを入れ、『アリスの …

呪縛されるモノすごい映画~『白いリボン』

呪縛されるモノすごい映画~『白いリボン』

『白いリボン』 このドイツ映画(仏・墺・伊との合作)はぜひご覧になることをオススメします。 以下、日経新聞に載ったぼくの映画エッセーです。 激賞しています!     ☆     ☆     ☆     …

『第三の男』~究極のラストシーン

『第三の男』~究極のラストシーン

チャチャチャチャチャ~ン、チャチャ~~ン、チャチャチャチャチャ~ン、チャチャ~~ン……♪♪ 暗号とちゃいますよ。メロディーを文字化したんですが、これじゃなにがなんだかさっぱりわかりませんよね(笑)。 …

健さん、逝く……。享年83

健さん、逝く……。享年83

高倉健さんが亡くなりはりました。   『幸せの黄色いハンカチ』、『駅STATION』、『居酒屋兆治』、『ブラックレイン』、『鉄道員(ぽっぽや)』、遺作の『あなたへ』……。   主演 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。