こんなタイプの映画、初めて観た。
山あいの集落で作物を育て、1人で自活する若い女性。
自然の恵みを食材にした料理の数々を盛り込み、彼女の日常を淡々と、それでいて詩情豊かに綴る。
何だかドキュメンタリー映画のようにすら思えた。
舞台は東北地方の小森という僻地。
一軒家に住むいち子(橋本愛)は都会に出たものの、自分の居場所がなく、郷里に帰ってきた。
寂しさや暗さを微塵も感じさせない。
どこまでも健気で、凛としている。
どうして独居なのか。
時折、母親(桐島かれん)と一緒に暮らしていた日々が回想され、謎が深まるばかり。
でも映画は別の世界へとぐいぐい誘っていく。
それは自然と溶け合う人間の素なる姿。
田畑で米やいろんな野菜を作り、野山で山菜やキノコを採る。
幼なじみのユウ太(三浦貴大)や村人からの頂き物もあるが、ほぼ自給自足の生活を貫く。
現実の農作業は厳しい。
甘くはない。
素人がこんな軽やかに勤しめるはずがない。
そこはあえて目を瞑ろう。
メルヘンと思えばいい。
何はともあれ、旬の食材を使った料理に目を見張らされる。
グミのジャム、ホールトマトのパスタ、イワナの南蛮漬け、栗の渋皮煮、くるみごはん……。
料理番組さながらクローズアップを多用し、レシピともども丁寧に調理法を映し出す。
それも食材の収穫から。
素材を生かしたシンプルな献立。
グルメでなくても、次はどんな料理が出てくるのかと期待させる。
食と生。
不可分な関係を維持するために食べ物を作り続ける。
その楚々とした生き方を羨ましく思え、同時に心が安らいでくる。
本作は夏と秋編。
来年2月に冬と春編が公開される。
季節の移ろいを1年間のオールロケで撮った映像は殊のほか美しい。
ラスト、母親からの手紙。
これは気になる。
森淳一監督。
1時間51分。
★★★★(見逃せない)
☆30日から大阪・なんばパークスほか全国で公開
(日本経済新聞2014年8月29日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)