武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

自然の中に居場所を求め~日本映画『リトル・フォレスト 夏・秋』

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                           ©「リトル・フォレスト」製作委員会

 

こんなタイプの映画、初めて観た。

 

山あいの集落で作物を育て、1人で自活する若い女性。

 

自然の恵みを食材にした料理の数々を盛り込み、彼女の日常を淡々と、それでいて詩情豊かに綴る。

 

何だかドキュメンタリー映画のようにすら思えた。

 

舞台は東北地方の小森という僻地。

 

一軒家に住むいち子(橋本愛)は都会に出たものの、自分の居場所がなく、郷里に帰ってきた。

 

寂しさや暗さを微塵も感じさせない。

 

どこまでも健気で、凛としている。

 

どうして独居なのか。

 

時折、母親(桐島かれん)と一緒に暮らしていた日々が回想され、謎が深まるばかり。

 

でも映画は別の世界へとぐいぐい誘っていく。

 

それは自然と溶け合う人間の素なる姿。

 

                            ©「リトル・フォレスト」製作委員会

 

田畑で米やいろんな野菜を作り、野山で山菜やキノコを採る。

 

幼なじみのユウ太(三浦貴大)や村人からの頂き物もあるが、ほぼ自給自足の生活を貫く。

 

現実の農作業は厳しい。

 

甘くはない。

 

素人がこんな軽やかに勤しめるはずがない。

 

そこはあえて目を瞑ろう。

 

メルヘンと思えばいい。

 

何はともあれ、旬の食材を使った料理に目を見張らされる。

 

グミのジャム、ホールトマトのパスタ、イワナの南蛮漬け、栗の渋皮煮、くるみごはん……。

 

料理番組さながらクローズアップを多用し、レシピともども丁寧に調理法を映し出す。

 

それも食材の収穫から。

 

素材を生かしたシンプルな献立。

 

グルメでなくても、次はどんな料理が出てくるのかと期待させる。

 

食と生。

 

不可分な関係を維持するために食べ物を作り続ける。

 

その楚々とした生き方を羨ましく思え、同時に心が安らいでくる。

 

                           ©「リトル・フォレスト」製作委員会

 

本作は夏と秋編。

 

来年2月に冬と春編が公開される。

 

季節の移ろいを1年間のオールロケで撮った映像は殊のほか美しい。

 

ラスト、母親からの手紙。

 

これは気になる。

 

森淳一監督。

 

1時間51分。

 

★★★★(見逃せない)

 

☆30日から大阪・なんばパークスほか全国で公開

 

(日本経済新聞2014年8月29日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。