マンチェスターの名から英国の映画と勘違いしそうだが、題名は米国東海岸の保養地で、その町を舞台に叔父と甥の触れ合いが描かれる。
絶望から再生へと一歩踏み出す姿をどこまでも寄り添って見据えた珠玉の人間ドラマだ。
便利屋として働く独り者のリー(ケイシー・アフレック)は不愛想で、不機嫌極まりない。
そんな彼が、兄チャンドラー(カイル・チャンドラー)の突然死で、1人息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人になる。
想定外の展開に戸惑うばかり。
甥は16歳の高校生。
父の死を受け止めてはいるが、やはり動揺を隠しきれない。
それでもスポーツやバンド活動、ガールフレンドとの交際と青春を満喫している。
片やリーはかつてこの町で言いようもなく辛い体験をした。
元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)との幸せな日々を回顧しながらも、その悲劇と常に向き合っている。
帰郷してからは情緒が不安定で、苦悶の表情を浮かべる。
一刻も早く町から抜け出したい。
彼の暗い心象が、冬枯れの光景と相まって映画の通奏低音をなす。
親子とはまた異なる、叔父と甥の微妙でぎこちない関係。
しかも別世界で生きているだけに、当然、2人の間に摩擦や確執が生じる。
その距離感を、脚本も書いたケネス・ロナーガン監督が過去と現在を交錯させ、慎み深く映し出す。
互いに弱さを共有するところが胸に染み入る。
本作で今年のアカデミー賞主演男優賞を受賞したアフレックの演技が素晴らしい。
拭い去れない痛みと哀しみを体の芯から表現していた。
元妻と偶然、鉢合わせした時の凍り付いた反応がとりわけ印象深い。
逆境の中での新たな出会。
それが一筋の光明を見出させる。
2人が一緒に釣り糸を垂れるラストシーンの余韻が脳裏から離れない。
本当に滋味深い映画だった。
2時間17分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆テアトル梅田、なんばパークスシネマほか全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2017年5月19日に掲載。許可のない転載は禁じます)