ハリウッドのメジャーと一線を画し、独特な映像世界を築く奇才ウェス・アンダーソン監督の新作。
目を見張らんばかりの造形美を存分に生かし、遊び心が溢れる大人のメルヘンに仕上げた。
心ときめく娯楽ミステリーだ。
題名からしてハンガリーの話と思いきや、東ヨーロッパの架空の国が舞台。
山上に建つ優美なリゾートホテルのコンシェルジェ、グスタヴ(レイフ・ファインズ)と愛弟子のベルボーイ、ゼロ(トニー・レヴォロリ)が常連客の伯爵夫人殺害事件の解明に乗り出す。
ピンク色のホテルとケーブルカーは見るからにミニチュア模型丸出し。
それを目にした瞬間、お伽噺風の味つけに笑みがこぼれ、気がつくと、ユーモアをまじえた小気味よい物語にどっぷり浸っていた。
ホテルが栄華を極めた大戦前夜の1930年代、戦後、共産圏に組み入れられ、すっかり寂れた60年代、そして現代。
3つの時代をそれぞれ異なるスクリーン・サイズで見せる。
大胆な試みだ。
このこだわりが回想形式のドラマであることを強く意識させる。
ファシズムの脅威が増し、開戦へと至る厳しい情勢下、伯爵夫人が残した1枚のルネサンス絵画をめぐって東奔西走するグスタヴとゼロはまさに活劇のヒーロー。
2人を狙う殺し屋(ウィレム・デフォー)の凄味も光る。
実に痛快な冒険譚でもある。
プロ意識に徹し、非の打ちどころのないホテルマンをしなやかに演じたファインズの巧さに目を見張った。
英国人俳優特有の気品の高さが役どころにぴったり。
名立たる役者が随所に登場している。
彼らを見つけるだけでも楽しめる。
ノスタルジックな映像からそこはかとなく感じられる無常観と寂寥感。
テーマは深い。
アンダーソン監督はどこまで進化するのだろうか。
目が離せない。
1時間40分
★★★★(見逃せない)
☆6/6(金)よりTOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、
TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
(日本経済新聞2014年6月6日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)