感動的な音楽映画が公開されています。
『アンコール!!』
もう一度、観たいです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
著名なミュージシャンの自伝、バンド結成の歩み、メンバーの確執……。
音楽映画は実に多彩だ。中でも歌の力で登場人物が前向きに生きる物語は後味がいい。
本作はその典型例。
しかも高齢者の話とあって、なおさら興味をそそられる。
監督は英国の新鋭ポール・アンドリュー・ウィリアムズ。
祖父母の思い出を脚本にまとめ、映画化した。
気難し屋で、人づき合いが苦手な夫アーサーとシニア合唱団の活動を楽しむ社交的な妻マリオン。
全く対照的なところがミソだ。
その夫婦を超ベテラン俳優のテレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴが巧妙に演じる。
肩の力を抜きながらも、ここぞという場面では気迫溢れる演技を披露、さすがいぶし銀の味を出していた。
合唱団で歌うのはロック、ポップス、ラップといった今風のサウンド。
何とロボット・ダンスにも挑むのだから恐れ入る。
若い女性音楽教師(ジェマ・アータートン)が健気に指導する姿は何とも微笑ましい。
ただ残念なのは、団員の存在感が乏しいこと。
各人の個性をもう少し際立たせ、夫婦に絡ませれば、もっと物語に厚みが出たと思う。
マリオンのガン再発がアーサーに激震を起こす。
夫と1人息子(クリストファー・エクルストン)との険悪な関係といい、家族ドラマにはよくある設定だ。
なのに目を釘付けにさせる。
それは2人の愛の強さを存分ににじみ出していたから。
妻が夫のために熱唱したシンディー・ローパの「トゥルー・カラーズ」。
「本当の色を見せて」という歌詞に自身の気持ちを重ね合わせる。
見事な選曲だ。
それを受け止めるアーサー。
いかに喪失感を克服し、自分の殻から抜け出せるか。
彼の苦悩と勇気が感動のエンディングへとつながる。
愛こそは全て。
思わずブラボーと叫びたくなった。
1時間34分
★★★★(見逃せない)
☆7.5(金)TOHOシネマズ梅田 全国ロードショー
(日本経済新聞2013年7月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)