武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

愛の賛歌~♪♪ 『アンコール!!』

投稿日:2013年7月6日 更新日:

感動的な音楽映画が公開されています。

 

『アンコール!!』

 

もう一度、観たいです。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

著名なミュージシャンの自伝、バンド結成の歩み、メンバーの確執……。

 

音楽映画は実に多彩だ。中でも歌の力で登場人物が前向きに生きる物語は後味がいい。

 

本作はその典型例。

 

しかも高齢者の話とあって、なおさら興味をそそられる。

 

監督は英国の新鋭ポール・アンドリュー・ウィリアムズ。

 

祖父母の思い出を脚本にまとめ、映画化した。

 

気難し屋で、人づき合いが苦手な夫アーサーとシニア合唱団の活動を楽しむ社交的な妻マリオン。

(C)Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.

全く対照的なところがミソだ。

 

その夫婦を超ベテラン俳優のテレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴが巧妙に演じる。

 

肩の力を抜きながらも、ここぞという場面では気迫溢れる演技を披露、さすがいぶし銀の味を出していた。

 

合唱団で歌うのはロック、ポップス、ラップといった今風のサウンド。

 

何とロボット・ダンスにも挑むのだから恐れ入る。

(C)Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.

若い女性音楽教師(ジェマ・アータートン)が健気に指導する姿は何とも微笑ましい。

 

ただ残念なのは、団員の存在感が乏しいこと。

 

各人の個性をもう少し際立たせ、夫婦に絡ませれば、もっと物語に厚みが出たと思う。

 

マリオンのガン再発がアーサーに激震を起こす。

 

夫と1人息子(クリストファー・エクルストン)との険悪な関係といい、家族ドラマにはよくある設定だ。

 

なのに目を釘付けにさせる。

 

それは2人の愛の強さを存分ににじみ出していたから。

 

妻が夫のために熱唱したシンディー・ローパの「トゥルー・カラーズ」。

 

「本当の色を見せて」という歌詞に自身の気持ちを重ね合わせる。

 

見事な選曲だ。

 

それを受け止めるアーサー。

 

いかに喪失感を克服し、自分の殻から抜け出せるか。

 

彼の苦悩と勇気が感動のエンディングへとつながる。

(C)Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.

愛こそは全て。

 

思わずブラボーと叫びたくなった。

 

1時間34分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆7.5(金)TOHOシネマズ梅田 全国ロードショー

 

(日本経済新聞2013年7月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。