武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

人間の誇りと崇高な愛を描いたドイツ映画『東ベルリンから来た女』

投稿日:2013年2月8日 更新日:

最近、見ごたえのある映画が目白押しです。

 

この映画も、グイグイ引き込まれました。

 

    ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

© SCHRAMM FILM / ZDF / ARTE 2012

邦題から、米ソ冷戦期、西側への亡命者の映画だと思った。

 

しかしそうではなく、旧東ドイツ国内の過酷な社会を浮き彫りにし、その中で崇高な愛を謳い上げていた。

 

生身の人間から発せられる悲痛な心の叫びが胸に突き刺さった。

 

ベルリンの壁崩壊9年前(1980年)の物語。

 

冒頭から全編を覆うただならぬ空気を予見させる。

 

ベンチに座り、寂しげに、それでいて開き直って紫煙をくゆらす女医バルバラ(ニーナ・ホス)を建物の窓から2人の男が覗き見する。

 

彼女は西ドイツへの移住申請を却下され、ベルリンから田舎町の病院に左遷された。

 

この日が初出勤日。

 

男は上司の医師アンドレ(ロナルド・ツェアフェルト)と秘密警察の諜報員だ。

 

抑圧された管理社会を見事に象徴した場面である。

 

閉塞感に包まれた息苦しい日常の中で増幅する疑心暗鬼。

 

“前科者”と見なされ、主人公の表情はますます氷のように冷たくなる。

 

前半は当時の実像を容赦なくあぶり出した『善き人のためのソナタ』(2006年)と類似した内容だ。

 

本作はしかし、単に告発をテーマにした映画ではない。

 

国外脱出を企む彼女が、ある意味、自分とよく似た境遇の少女の主治医になったことから様相が変わる。

 

人間として、医師としての矜持が芽生え、そこにアンドレとの触れ合いがごく自然に絡まってくる。

 

ほのかに彼女の頬に血の気がさす。

 

その移ろう様に、クリスティアン・ペッツォルト監督は一見、冷徹ながらも、慈愛を込めて迫る。

 

しかもサスペンス風味の不穏な雰囲気を終始、保ったままで。

 

強靭な演出力だと思う。

 

究極の選択。

 

バルバラが取った行動にぼくは感嘆した。

 

その裏に真の愛とは何かという問いかけがあったから。

 

クールな映像とは裏腹に、実に熱い映画だった。

 

1時間45分

 

★★★★(見逃せない)

 

大阪: テアトル梅田 2月9日(土)

京都: 京都シネマ 2月9日(土)

兵庫: シネ・リーブル神戸 2月16日(土)

 

(日本経済新聞2013年2月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

今年を振り返って……(^_-)-☆

今年を振り返って……(^_-)-☆

昨年に続き、コロナ禍に振り回された2021年もいよいよ終幕が近づいてきました。 この1年を振り返ると、最大のトピックスはやっぱり初小説『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房) …

「原爆の日」……、映画『さくら隊散る』

「原爆の日」……、映画『さくら隊散る』

きょうは67年目の「原爆の日」。   ヒロシマ・ナガサキの悲劇を描いた映画は多々ありますが、この作品も忘れがたいです。   以前、新聞『うずみ火』で掲載された拙稿をどうぞ。 &nb …

心の闇を容赦なくあぶり出す~日本映画『怒り』(17日公開)

心の闇を容赦なくあぶり出す~日本映画『怒り』(17日公開)

信じることの難しさ、増長する不信感、信じられなくなった時のやるせなさ(罪悪感?)。   対人関係の根底を揺るがすテーマにミステリー仕立てで斬り込んだ。   心の闇に容赦なく迫る映像 …

高倉健、6年ぶりの映画『あなたへ』

高倉健、6年ぶりの映画『あなたへ』

(C)「あなたへ」製作委員会 健さんが6年ぶりに銀幕に戻ってきた。   若い人にはピンとこないだろうが、高倉健の存在は日本映画において千鈞の重みがある。   205本目の出演作とな …

隆祥館書店での盛り上がった刊行記念トークイベント+島之内教会で拙著の紹介

隆祥館書店での盛り上がった刊行記念トークイベント+島之内教会で拙著の紹介

昨夜は、大阪・谷町六丁目の隆祥館書店で、拙著『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房)の刊行記念トークイベントでした。 同店主催の「作家さんとの集い」の一環として開催され、ぼく …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。