重いけれど、観させる。
そして考えさせられる。
こういう映画もたまには観る方がいいと思います。
今日から封切りです。
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人生のピリオドをどう締めくくるか。
この永遠のテーマに本作は真正面から切り込む。
『それでもボクはやってない』(2007年)で痴漢冤罪にメスを入れた周防正行監督が、今度は医療問題に焦点を当てた。
呼吸器内科の女医、折井綾乃(草刈民代)と喘息で苦しむ江木秦三(役所広司)。
単なる医師と患者の関係であった2人がある出来事を機に、心を寄せ合っていく。
両者の理想的な関係と見てとれるが、もっと強い絆と言ってもいい。
何しろ秦三が担当医に全幅の信頼を置き、リビング・ウィル(生前意志)を伝えるのだから。
ここでは妻や家族の存在があまりにも希薄だ。
周防監督はラブストーリーだと説明する。
確かに信頼感のベースには愛がある。
ぼくにはしかし、恋人のような感情ではなく、むしろ人間愛のように思えた。
映画は心模様以上のものをあぶり出す。
延命治療、安楽死、尊厳死の問題を包含した終末医療のあり方である。
銀幕を包み込む重い空気が、医療現場の実情を如実に反映させる。
後半は一転、刑法との絡みに重点が置かれる。
検察官の塚原(大沢たかお)が殺人罪で綾乃を厳しく追及する。
医師、法の番人として互いに意見を戦わせるが、最後までかみ合わない。
全編を通じて、セリフが多い。
まるで舞台劇のようだ。
こういう場合、長回しで撮るのが定石だが、本作ではあえて細かいカット割りをつなぎ、それがかえって濃密な空間を生み出した。
緊迫感溢れる調査室で、綾乃と塚原が対峙する場面には引き込まされた。
冷徹非情に見える検事が心情的に女医に理解を示すような表情を一瞬、浮かべる。
少し救われた。
巧い演出だ。
監督の出世作『Shall we ダンス?』(1996年)で、師弟関係の役に扮した草刈と役所がこんな形で再共演。
次を期待してしまう。
2時間24分。
★★★
☆10月27日(土)全国東宝系ロードショー
(日本経済新聞2012年10月26日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)