武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

末期医療の実情に迫る~『終(つい)の信託』

投稿日:2012年10月27日 更新日:

重いけれど、観させる。

 

そして考えさせられる。

 

こういう映画もたまには観る方がいいと思います。

 

今日から封切りです。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

○c2012フジテレビジョン 東宝 アルタミラピクチャーズ

 

人生のピリオドをどう締めくくるか。

 

この永遠のテーマに本作は真正面から切り込む。

 

『それでもボクはやってない』(2007年)で痴漢冤罪にメスを入れた周防正行監督が、今度は医療問題に焦点を当てた。

 

呼吸器内科の女医、折井綾乃(草刈民代)と喘息で苦しむ江木秦三(役所広司)。

 

単なる医師と患者の関係であった2人がある出来事を機に、心を寄せ合っていく。

 

両者の理想的な関係と見てとれるが、もっと強い絆と言ってもいい。

 

何しろ秦三が担当医に全幅の信頼を置き、リビング・ウィル(生前意志)を伝えるのだから。

 

ここでは妻や家族の存在があまりにも希薄だ。

 

周防監督はラブストーリーだと説明する。

 

確かに信頼感のベースには愛がある。

 

ぼくにはしかし、恋人のような感情ではなく、むしろ人間愛のように思えた。

○c2012フジテレビジョン 東宝 アルタミラピクチャーズ

 

映画は心模様以上のものをあぶり出す。

 

延命治療、安楽死、尊厳死の問題を包含した終末医療のあり方である。

 

銀幕を包み込む重い空気が、医療現場の実情を如実に反映させる。

 

後半は一転、刑法との絡みに重点が置かれる。

 

検察官の塚原(大沢たかお)が殺人罪で綾乃を厳しく追及する。

 

医師、法の番人として互いに意見を戦わせるが、最後までかみ合わない。

 

全編を通じて、セリフが多い。

 

まるで舞台劇のようだ。

 

こういう場合、長回しで撮るのが定石だが、本作ではあえて細かいカット割りをつなぎ、それがかえって濃密な空間を生み出した。

 

緊迫感溢れる調査室で、綾乃と塚原が対峙する場面には引き込まされた。

 

冷徹非情に見える検事が心情的に女医に理解を示すような表情を一瞬、浮かべる。

 

少し救われた。

 

巧い演出だ。

 

監督の出世作『Shall we ダンス?』(1996年)で、師弟関係の役に扮した草刈と役所がこんな形で再共演。

 

次を期待してしまう。

 

2時間24分。

 

★★★

 

☆10月27日(土)全国東宝系ロードショー

 

(日本経済新聞2012年10月26日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

『キャピタリズム マネーは踊る』~マイケル・ムーアの怒り

『キャピタリズム マネーは踊る』~マイケル・ムーアの怒り

アメリカは、言わずと知れた資本主義国家です。その根幹を見据えるドキュメンタリー映画『キャピタリズム マネーは踊る』がいま公開されています。 いろんな意味でかなり面白いです。以下、ぼくの映画エッセーを載 …

自然の中に居場所を求め~日本映画『リトル・フォレスト 夏・秋』

自然の中に居場所を求め~日本映画『リトル・フォレスト 夏・秋』

                           ©「リトル・フォレスト」製作委員会   こんなタイプの映画、初めて観た。   山あいの集落で作物を育て、1人で自活する若い女性 …

大阪芸大卒業生の学生時代製作映画の上映~(^_-)-☆

大阪芸大卒業生の学生時代製作映画の上映~(^_-)-☆

庵野秀明、橋口亮輔、三原光尋、熊切和嘉、大森研一、山下敦弘、呉美保、石井裕也、二宮建……。 日本の映画界で活躍している大阪芸術大学映像学科出身(中退も含む)の監督が何と多いことか~ その大阪芸大のOB …

2017年の映画ベストテンを発表~!!

2017年の映画ベストテンを発表~!!

今年も映画ベストテンの時期になってきました。 「おおさかシネマフェスティバル」用に選出しました。 結構、悩んだ……((+_+)) 外国映画の10位に選んだ『リュミエール!』は映画の原点へのリスペクトで …

映画カルチャーの打ち上げでした~(^_-)-☆

映画カルチャーの打ち上げでした~(^_-)-☆

今宵は、天六(天神橋筋六丁目)のブックカフェ「ワイルドバンチ」で、淑女の皆さまと打ち上げでした~🍷🍻 春から夏にかけて、関西大学梅田キャンパスで開かれた映画講座「シネマ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。