これ、ひょっとしたら今年の邦画ベストワンになる可能性が大です。
迷うことなく、★★★★★をつけました~(^_-)-☆
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「舟を編む」(13年)で丁寧な演出力を内外で高く評価された石井裕也監督の新作。
ズバリ、家族に斬り込んだ。
それも真正面から。
非常にシリアスな物語なのに、一種、爽快感を与える。
〈石井マジック〉が冴える新感覚のホーム・ドラマだ。
会社経営者の父親(長塚京三)と母親(原田美枝子)は東京郊外の一軒家で暮らしている。
会社員の長男(妻夫木聡)は所帯を持って独立しているが、次男(池松壮亮)は大学を留年し、気ままな下宿生活を送る。
そんな家族に激震が走った。
母親が脳腫瘍で余命1週間と宣告されたのだ。
さぁ、どうする!?
ここから2人の息子と父親が母(妻)を救うべく奮闘劇が繰り広げられる。
といっても、妙にゆとりが感じられる。
誇張した表現は一切ない。
切羽詰まった状況を気負わずに、かつ登場人物の本質をさり気なく描き出したからだろう。
これが石井監督の真骨頂。
大黒柱の父親が何とも頼りなくて、生真面目な長男が全てを仕切る。
次男は能天気ながらも気骨あるところを見せる。
兄弟の距離感が絶妙だ。
こんな具合に素顔が明かされるにつれ、この一家に同化していく。
緩急のメリハリも効いていた。
記憶が薄らぎ、天真爛漫な少女のようになった母親と次男とのかみ合わない会話が笑いを誘う。
その横で父親と長男が顔を強張らせている。
見事な対比。
可愛さを存分に体現させた原田。茶目っ気な性格を印象づけた長塚。
繊細な心を些細な仕草で表現した妻夫木。
池松も少年から大人へ成長する若者を好演していた。
配役は申し分ない。
分裂状態にあった家族が、ある程度よく似たベクトルを持って歩み出す。
決して一致団結ではない。
そこに理想像とは異なるリアルさがあり、大いに納得できた。
本当に愛すべき家族だった。
1時間57分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆5月24日(土)より、大阪ステーションシティシネマ/なんばパークスシネマ/
MOVIX京都/神戸国際松竹、他全国ロードショー
(日本経済新聞2014年5月23日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)