こういう役どころは中井貴一を置いて他にはいませんね。
阿部寛もなかなかシブイ演技を披露していました。
中村吉右衛門は余裕の演技でした。
広末涼子は……???
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
損得で左右されない絶対的な忠誠。
複雑多様化する昨今、日々、情報に振り回されるわが身を思うと、武士道の潔さに理屈抜きに憧れる。
時代が激変しようが、矜持を持って生き抜くサムライ。
本作はその真摯な姿に肉迫した。
幕末、開国を推し進める幕府の大老、彦根藩主の井伊直弼(中村吉右衛門)が尊皇攘夷派によって暗殺された桜田門外の変。
この時、主君を救えなかった彦根藩士の志村金吾(中井貴一)が仇を討つべく、生き残った水戸浪士の行方を追う。
金吾のひたむきさは中途半端ではない。
文明開化の明治期になっても、ちょんまげに二本差しの侍姿を捨てず、愚直なまでに使命を全うしようとする。
もはや彦根藩は存在しないのに……。
片や水戸浪士の佐橋十兵衛(阿部寛)。
事件後、俥夫となり、人目を忍んで長屋でひっそりと暮らしている。
達観した眼差し。
仇討されるのを待ち望んでいるようにすら感じられる。
共に時代の流れに取り残された人物である。
様変わりした価値観に抗うのではなく、確固とした信念に基づき自分の生き方を貫く。
その先にあるのは死だ。
そんな彼らの〈覚悟〉が物語に通底している。
悲壮感を伴った重みが映像の端々から伝わってくるのはそのためだろう。
金吾を支える妻セツ(広末涼子)の献身ぶり、邏卒(巡査)になった親友、新之助(高嶋政宏)との友情……。
脇筋を程よく散りばめ、クライマックスへと至る流れがよどみない。
13年目にして再び対峙した金吾と十兵衛。
奇しくも「仇討禁止令」の公布日。
雪中の人力車での会話に凄まじい緊迫感がみなぎる。
いかにして自分の始末にけじめをつけるのか。
原作は作家、浅田次郎の38㌻の同名短編小説。
それを長尺の人間ドラマに仕上げた若松節朗監督の手腕を評価したい。
1時間59分
★★★★(見逃せない)
☆20日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞2014年9月19日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)