武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

日記

「頑張れ!」という言葉

投稿日:2012年2月28日 更新日:

先日、地下鉄の車内で見かけた光景。
「もっと頑張りなさい。発表会が目の前に近づいているんだから。とにかく頑張って! 毎日、一生懸命、頑張って鍵盤を弾き続けていたら、うまくいくから。帰ってからも頑張りなさいよ!」
おそらく習い事のピアノのことなのだろう、小学生の低学年と思われる女の子が、母親から励まされていました。
子を想う母親の精一杯の愛情が感じられたのですが、ゆめゆめほほ笑ましい場面ではなかったです。
女の子がずっと困惑した表情を見せていたから。
「頑張れ!」という母親のひと言、ひと言がグサリ、グサリと胸に突き刺さっているようにぼくには思えました。
この「頑張れ!」という言葉、とても便利です。
常套語として、誰しも無意識に使っていますよね。
ぼくもかつては口を開くたびに、「頑張ってくださいね」「頑張れよ」と言っていました。
でも、30代の半ばころから使えなくなりました。
なぜか?
新聞記者をしていたころです。
エネルギーを目一杯、注いで頑張っているのに、ちっとも報われず、空回りばかり。
しかも強烈なプレッシャーに押しつぶされ、うつ状態になったことがあります。
何度か仮病を使って会社を休み、日がな一日、公園のブランコに乗っていたことも。
今のぼくからはちょっと信じられませんね。
でも、実際にあったことです。。
めちゃめちゃ苦しかった。
そういうとき、きまって周りの者から「おい、頑張れよ!」、「もっと頑張ったら、先が見える」などと声をかけてくれました。
落ち込んでいるぼくを気遣って、励ましてくれたのでしょう。
温かい思いやり……。
しかし当の本人(ぼく)は、「これだけ頑張っているのに、まだ頑張らなあかんのんか」と逆に息苦しくなり、ますます奈落の底に落ちていったのです。
うつ病の人に励ましは禁物というのが、初めてわかりました。
その時の経験から、安易に「頑張れ!」という言葉を発しない方がいいと思うようになったんです。
相手が「頑張ります!」と言った時は、もちろん、「頑張ってください」と返答しますが、よほど相手の状況を把握したうえでないと、この言葉は使えない。
軽い気持ちで、「頑張れ!」と言っても、実は相手が本当に悩んで落ち込んでいるかどうかわかりませんからね。
たとえ善意であっても、無責任きわまる言葉にぼくには聞こえるんですよ。
一度たりとも、本当に苦しんだことのある人なら、わかっていただけると思います。
ちょかBandのファーストライブ(昨年11月)で来場者から頂いた義援金を携え、昨年暮れに宮城の気仙沼に行きました。
街中には、「頑張れ! 東北」、「頑張れ!頑張れ!」の表記が目につきました。
多くは外部から被災地に向けられたメッセージです。
正直、ぼくは胸が痛くなり、地元の人に訊きました。
「頑張れ、頑張れと言われて、しんどくありませんか」
案の定、うなずく人ばかり。
「当初は、もちろん頑張らねばならないと思って、頑張っていたけれど、ずっとそんな状態が続くわけないですよ」
呑み屋の女将さんが返したこの言葉が一番、胸の内を如実に物語っていたと思います。
頑張るというのは、当事者が意識(認識)することで、他人がとやかく言うもんやないような気がします。
広辞苑には、「頑張る」がこう説明されています。
「どこまでも忍耐して努力する」
そら、しんどいですわ。
普通の状態でもバテてしまう。
言葉の遊びと言えばそれまでですが、まぁ、こんなわけで、軽い気持ちで人に「頑張れ!」と言うのはどうかなと思うわけです。
誤解してもらっては困ります。
「頑張る」という言葉を決して否定しているわけではありません。
頑張ってはる人を見たら、うれしくなるし、応援したくもなります。
また、大きな目標に向かって、「頑張ろう!」と自分から(あるいは仲間同士で)気持ちを高めるのは、もちろんいいです。
「甲子園をめざして、頑張ろう!」
高校球児たちの熱い言葉は何ともさわやかです。
ただ、それを他人に強要するのはどうかなと思うんです。
みな、それなりに一生懸命やっているはずなのだから、あえて言う必要なんてないのでは。
よほどグータラしている相手には、言ってもいいと思いますが……(ぼくは言いません)。
今でも、人から「頑張ってください!」と言われると、その気持ちはありがたく受け止めるのですが、どうも複雑な気持ちになります。
ならば、ぼくはどう言っているのか。
「納得いくようにやってください!」
「健闘を祈っています!」
こんな感じです。
教え子に対しても、概してそうです。
相手がしんどそうなら、絶対に「頑張れ!」は禁句。
「ぼちぼちやってください」
「まぁ、ぼちぼちやり~」
これ、いいですね。
気仙沼でもこの大阪弁を広めてきました。
ゆるく聞こえるけれど、ほんま、そんなもんですよ。
言われる側にすれば、ホッとするはず。
ぼくもかつて苦しい時にこう言われ、すごく楽になりました。
そんなわけで、今日1日、自分で納得いくようぼちぼちやって、機嫌よぉ過ごせました(^o^)v

-日記

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。