武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

いきなり533人の父親に~!? カナダ映画『人生、ブラボー!』

投稿日:2013年2月1日 更新日:

こんな映画があってもいいと思います。

 

後味がめちゃめちゃいいもの。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

(C) 2010 DIMS Film, LLC. All Rights Reserved.

 ダメ男を主人公にしたドラマは存外に多い。

 

しかしこんな形で再生する姿を描いた映画は観たことがない。

 

テーマは父親。ラストに近づくにつれ、加速度的に心がほんわかとしてくる。

 

珠玉のカナダ映画。

 

42歳の独身男ダヴィッド(パトリック・ユアール)が23年前、報酬ほしさに提供した精子によって、533人の子供を誕生させたことが判明。

 

さらに彼らの一部から父親の身元開示の訴訟を起こされ、正体を明かしたくないと裁判で争う。

 

何と奇抜な物語。

 

驚天動地の事実にうろたえ、遺伝子上の子供たちを敵に回すのだから、心中いかばかりか。

 

映画はしかし、シリアスさをかなりそぎ落とし、主人公の心の移ろいに焦点を当て、終始、プラス志向で捉える。

 

この人物が徒者でないところがミソだ。

 

自堕落な生活を送り、借金まみれで、家族内でも浮いている。

 

しかも妊娠した恋人ヴァレリー(ジュエリー・ル・ブルトン)から、父親になってほしくないと宣告される。

 

最悪な時に子供たちの存在を知らされ、否が応でも父親であることを認識させられる。

 

このパラドックスがたまらなくおかしい。

 

役者志望の青年、薬物依存の少女、重度の障害者……。

 

自分のDNAを受け継ぐ若者たちに素性を隠し、彼ら1人1人に会っていく。

 

そのプロセスが笑いと涙を誘い、予期せぬ結末へと引っ張っていく。

 

キーワードは父性愛に基づく人の絆。

 

極めて楽天的な展開だが、きちんと着地点を設けているところに好感が持てる。

 

後半はあっと言う間に過ぎ去った。

 

オリジナル脚本を書いたケン・スコット監督の人間をとことん信じる眼差しが随所で生かされていた。

 

まさに人生讃歌。

 

母性重視の映画が少なくないが、父性力も捨てたものではない。

 

そう思わせる1作だった。

 

1時間50分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆2日からシネ・リーブル梅田で公開

 

(日本経済新聞2013年2月1日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

あの時代が甦る~ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン、ニューヨーク』

あの時代が甦る~ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン、ニューヨーク』

このギター、これまで何度もブログに出てきましたね。 ギブソンの「J-160E」。 エレクトリック・アコースティック・ギター(エレアコ)です。 昨年暮れ、縁合って、ぼくの最愛の宝物になりました。 ジョン …

走って、走って、「生」を発散~ドイツ映画『陽だまりハウスでマラソンを』

走って、走って、「生」を発散~ドイツ映画『陽だまりハウスでマラソンを』

世はマラソンブーム。   それもシニアから始める人が増えています。   かく言うぼくもその1人です~(^_^)   マラソン完走後の充足感は言葉で言い尽くせません。 &n …

“巨匠”イーストウッドの新作『インビクタス 負けざる者たち』

“巨匠”イーストウッドの新作『インビクタス 負けざる者たち』

©2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. 今や巨匠の域に達したクリント・イーストウッド監督の新作は、1995年のラグビー・ワールドカップで偉業を成し遂げた南ア …

再び、『ウイスキーと2人の花嫁』〈日経掲載分〉(17日公開~)、トークショーがありますよ!

再び、『ウイスキーと2人の花嫁』〈日経掲載分〉(17日公開~)、トークショーがありますよ!

第2次大戦中、英国スコットランドの西部海域に浮かぶアウター・ヘブリディーズ諸島の小島で、貨物船が座礁した。 積み荷は5万ケース(約26万本)のスコッチ・ウイスキー。船が沈没する。 さぁ、島民はどうした …

11日の朝、ABCラジオ『おはようパーソナリティ古川昌希です』に出ます!

11日の朝、ABCラジオ『おはようパーソナリティ古川昌希です』に出ます!

明後日(11日)のABCラジオ朝の情報バラエティー番組『おはようパーソナリティ古川昌希です』にゲスト出演します。 古ポン(古川アナ)が見逃している名作映画を紹介する例のコーナーです。 今回はある意味、 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。