武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

原発の悲劇を淡々と描いた『カリーナの林檎~チェルノブイリの森』

投稿日:2011年11月18日 更新日:

今朝はちょっと二日酔い気味。
昨夜のヌーヴォー・ワインとバーでのウイスキーが脳細胞にいたずらしたようです。
でも大学の授業では、相変わらずベラベラと喋りまくり、一気に回復できました。
ぼくの二日酔い避けは、喋ることだと改めて実感した次第。
で、授業の最後に話したのがこの映画のことでした。
福島原発事故でいろんな影響が出始めているだけに、観ておく方がいい作品だと思います。
今日の日経新聞夕刊に載った拙稿です。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
カリーナ(1)
         カリーナプロジェクト©
チェルノブイリ原発事故から25年。
依然、収束していない厳しい現実を、1人の少女を通して浮き彫りにする。
どこまでも純朴な眼差しで悲劇を見据えた家族ドラマ。
東京電力福島第一原発事故を引きずる私たちには重くのしかかる。
あの事故は自国ウクライナだけでなく、周辺諸国にも多大な影響を与えた。
映画の舞台となったベラルーシもその1つ。
チェルノブイリは国境近くにある。
カリーナ(3)
      カリーナプロジェクト©
少女カリーナが生まれ育ったのは、リンゴが実り、美しい川が流れるのどかな田舎の村。
彼女には楽園に思えたが、そこは居住禁止区域のすぐ傍にある。
村人はみな他所へ移住し、今や祖母しか住んでいない。
カリーナは首都ミンスクの親戚宅に預けられている。
父親は出稼ぎ、母親は発病して入院中だから。
カリーナ(2)
      カリーナプロジェクト©
少女にはその家は居心地が悪く、心は生家と優しい祖母に向いている。
家族離散の哀しさが物語の軸となる。
そんな設定の中で、カメラはあどけない主人公の姿を追う。
田舎の映像だけを見ると、メルヘンのような佇まい。
だからこそ、「チェルノブイリには悪魔のお城があり、毒をまき散らしている」という母親の言葉が胸に突き刺さる。
全世界的な問題としてチェルノブイリ原発事故を風化させてはならない。
強い使命感を抱いた今関あきよし監督が現地に飛び、2004年に本作を完成させた。
撮影の途中、主人公のモデルとなった少女が血液ガンで病死したという。
今年、ようやく公開にこぎつけた直後、東日本大震災が発生。
「今こそ見てもらいたい」と監督は訴える。
放射能の恐怖をいたずらにあおらず、また教条的にも説いていない。
淡々と事実を再現しているだけ。
監督の視線はカリーナの笑顔の向こうにある。
そこに熱い問いかけが感じられた。
1時間51分
★★★
☆19日(土)から大阪・梅田ガーデンシネマで公開
(日本経済新聞2011年11月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

恐るべし、お婆ちゃんパワー!!~『デンデラ』

恐るべし、お婆ちゃんパワー!!~『デンデラ』

(C) 2011「デンデラ」製作委員会 お婆ちゃんパワーが炸裂!!  浅丘ルリ子、倍賞美津子、山本陽子、草笛光子、山口果林、白川和子、赤座美代子……。 酷寒の銀世界の中で、老婆に扮した錚々たるベテラン …

2月20日(日)17時~、ジュンク堂難波店で刊行記念イベントがあります!

2月20日(日)17時~、ジュンク堂難波店で刊行記念イベントがあります!

初小説の拙著『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房)の舞台となった大阪・ミナミの書店、ジュンク堂難波店で2月20日(日)17時から、刊行記念トークイベントとサイン会が催されま …

舞台『フェイドアウト』の公演、無事に閉幕と相成りました~(^_-)-☆

舞台『フェイドアウト』の公演、無事に閉幕と相成りました~(^_-)-☆

舞台『フェイドアウト』、昨日、無事に終わりました‼️ 3日間にわたる5回の公演がすべて完売になり、ご覧いただいた方々の感想もすべからく大好評~✌&#xfe0f …

豪華ゲストがズラリと……、おおさかシネマフェスティバル2018

豪華ゲストがズラリと……、おおさかシネマフェスティバル2018

春の訪れを告げる『おおさかシネマフェスティバル2018』が昨日(4日)、堂島のホテルエルセーラン大阪で開催されました。 1976年から始まった映画ファンのための映画まつりです。 当初は人集めで大変でし …

苦~いボンド・マティーニ

苦~いボンド・マティーニ

007シリーズの最新作『007/慰めの報酬』が24日から封切られます。22作目です。ダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドとして、前作『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)以上に大熱演。最 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。