武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

ロッカー魂を燃やすアラフォーたち~『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』

投稿日:2012年2月15日 更新日:

音楽って、ええなぁ~。
そう思わされた映画です。
長い文章ですが、最後まで目を通していただけるとありがたいです。
それにしても、音楽絡みが多くなりました。
しゃーないですね、現在進行形で音楽の世界に浸っているんですから(笑)
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
ウタヒメ
©2012「ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター」製作委員会
音楽好きの若者がロックバンドを結成し、ラストのステージで青春を一気に発散させる。
大林宣彦監督の『青春デンデケデケデケ』(1992年)に象徴されるがごとく、こういうパターンの音楽映画が結構、多いような気がする。
さまざまな障害を乗り越え、クライマックスのライブに到達するというストーリー展開は理屈抜きにドラマチック。
その上、視覚的に見栄えがし、サウンド的にも聴き映え(?)がするので、映画になりやすいのだろう。
ロックではないけれど、ソウル(リズム&ブルース)バンドを作ったアイルランドのダブリンっ子が「俺らはヨーロッパの黒人だ!」と魂の叫びをぶつけたアラン・パーカー監督の『ザ・コミットメンツ』(91年)も印象深かった。
昨年公開された『BANDAGE/バンデイジ』や『BECK』なども記憶に新しい。
ぼくは音楽が大好きだ。
だから内容や質とは関係なく、この手の映画には心が惹かれる。
告白すると(大そうな!)、音楽に対して、映画と同じくらい、いやそれ以上に熱いエネルギーを注いでいる。
他にもランニングや阪神タイガースなどにも「好きの力」をめいっぱい出し続けているけれど……。
今、とくに音楽にはまっているのは、ライブ活動を行っているから。
実は「ちょかBand」というアコギのユニットを昨年9月に結成した。
相方は古巣の新聞社の後輩。
ビートルズ、フォーク、ブルース、歌謡曲、そしてオリジナル曲を演(や)っている。
ジャンルがばらばらで、節操がないのが取り柄。
音楽の神サンがよく舞い降りてきて、知らぬ間にオリジナルが9曲も生まれた。
我ながらびっくり!
11月に大々的に開催したファーストライブが成功裏に終わり、それに味をしめ(同時にお声をかけていただき)、仕事そっちのけで(!?)、居酒屋やバーでライブを展開している。
1月29日には、単独ライブではないけれど、あの音楽の殿堂ビルボードライブ大阪(旧ブルーノート)のステージにも上がることができ、一生の思い出になった。
そんな最中、この『ウタヒメ』を観たのである。
正直、客観的に観られなかった。
すべてわが事に重ね合わせてしまった。
なので、この拙文が極私的な内容になってしまうことをどうかお許しいただきたい。
本作は、冒頭で述べたロックバンドの物語。
メンバーはしかし、ヤングではないし、当世はやりのオヤジでもない。
アラフォー(40歳前後)の4人の女性たち。
そこがウリ。
こういうドラマはいかに登場人物の個性を際立たせ、バンド結成にいたるプロセスをいかに面白おかしく描くか、そこがポイントになる。
メンバーはこんな面々だ。
ギターとボーカルを担当するのが主人公の美恵子(黒木瞳)。
45歳の主婦。
サラリーマンの夫(西村雅彦)は彼女に無関心で、夫婦の間でほとんど会話がない。
それどころか夫は会社で窮地に立たされストレスにさいなまれており、実家にしばしば逃避している。
さらに高校生の娘(栗咲寛子)は情緒不安から引きこもって登校拒否状態。
見た目は幸せそうな家族なのに、内実は家庭崩壊の危機が迫っている。
それもこれも、美恵子のキャラクターが多分に影響している。
主婦としては完ぺきで、度を過ぎるほどの気配り、気遣いを見せ、周りを疲れさせるのである。
典型的な優等生主婦。
本人は家族のためと思って、ごく自然に行動に移すのだが、悲しいかな、マイナスに作用する。
空回りである。
こういう人は確かにしんどい。
そんな美恵子のOL時代の後輩かおり(木村多江)がキーボードを弾く。
バツイチの40歳。男に騙された直後とあって、落胆しているが、根はカラッと明るく、非常に奔放な性格の持ち主。
いや、かなりトンでおり、常に〈男ほしいオーラ〉をまき散らしている。
彼女もまた違った意味で、一緒にいると疲れそう。
何もかも美恵子とは対照的な女性だ。
ドラムの雪見(山崎静代、南海キャンディーズの静ちゃん)は寂しがりやでコンプレックスを抱いている。
美恵子が家庭を飛び出し、アルバイトで働き始めた近くのコンビニで万引きをしたことから縁が芽生える。
口数が少なく、いつもモジモジしている。
大柄だけに、いっそう惨めさが引き立つ。
転勤族の夫が出世コースから外れ、社宅の主婦連中から村八分されている。
誰も友達がおらず、胸の内をさらけ出すことができない。
だからどんどん鬱積し、気がつけば、犯行(万引き)に及んでいる。
類型的なタイプと言えばそれまでだが、まぁ、納得できる。
そしてベースが、黒の革ジャンにキラキラの飾り物をいっぱいつけた新子(真矢みき)。
自称元ロッカーとあって、ケバさといい、ツッパリ具合といい、姐御的な存在感といい、申し分なし。
カッコをつけ、ツッケンドンとした喋り方が気に入った。
彼女は私生活をいっさい明かさず、謎めいているが、最後に正体がバレるところがミソ。
コンビニに入ってきた新子を見た瞬間、ぼくの脳裏にスージー・クワトロが浮かんだ。
あの伝説的な女性ベーシスト。
あゝ、懐かしい。
ぼくと同世代(昭和29年生まれ)の人はきっとそう思うだろう。
おそらくクワトロを真似ているにちがいない
美恵子、かおり、雪見、新子。
それぞれ悩みや心のモヤモヤを抱く彼女たちが、多分に白々しいところはあるにせよ、コンビニを舞台にしてごく自然に結びついてゆき、やがてウーマン・ロック・バンド「フォーリバース」(コンビニの店名をもじってつけた)を結成する。
新子のほかはみなど素人だ。
黒木と真矢はともに宝塚歌劇団の出身。
片や娘役、片や男役のトップスターだった。
2人の共演が微妙な不協和音を生むのではないかと思って(期待して?)いたが、意外としっくり絡み合っていた。
暗い役どころが多かった木村多江が一転、めちゃハジケていたのがとても愉快に思えた。
静ちゃんはあのキャラしか生かせないか……。
彼女たちがロックに飛び込んだ動機は、各自、温度差があるけれど、さっくり言うと、一種のウサ晴らし、いや開き直りかな。
壁にぶち当たっている現状を打破し、人生をリセットする意味があったのかもしれないし、アラフォーの自分にもまだまだパワーと可能性があることを実証したかったのかもしれない。
ともあれ、おばさん達がロッカー魂を胸に秘め、チャレンジ精神をみなぎらせていく。
それがわかりやすすぎるほど(くどすぎるほど?)丁寧に描かれていた。
普通はバンドを作ってから、演奏曲を決めるものだが、ここでは逆。美恵子が青春時代に心を躍らせたディープ・パープルの『スモーク・オン・ザ・ウォーター』をカラオケ店で耳にし、そこからバンド結成へと動き出す。
1972年の大ヒット曲。
これぞハードロックと言わんばかりのノリのいい超有名曲だ。
ダッダッダー、ダッダッダッダー、ダッダッダー、ダッダッダー~♪
一度聴けば、耳にこびりつくシンプルなリフ(繰り返されるコード進行)。
この1曲を演奏するために4人が結集した。
ここでぼくは自身の音楽との関わりをふと思い出した。
そもそもギターを手にしたのは、中学生の時。
ご多分に漏れず、「女の子にモテたい」がため。
男子はみなそうだった。
高校時代はロックの全盛期で、ビートルズやツェッペリンなど洋楽を弾きまくっていた。
バンドも作ったが、高校3年の文化祭では、友達と一緒にあえてアコギ2本で舞台に立ち、ビートルズとニール・ヤングの曲を披露した。
大学に入ってからは、時折、ギターを奏でていたものの、ほとんど聴く側に徹し、ひたすらジャズとブルースの世界にのめり込んだ。
そして社会人になると、忙しさから急速にギターと音楽が遠のいていった。
世の多くの人たちが歩むケースだと思う。
ところが2008年の暮れ、ザ・ローリング・ストーンズのライブを活写したマーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『シャイン・ア・ライト』を観て、彼らのあまりのカッコよさに度肝を抜かれた。
ぼくより10歳ほど上。
なのに何とエネルギッシュなのだ!
突然、心の中でドカーンと何かが炸裂した。
気がつくと中古ギターを買っていた。
それからである。
ギター三昧の日々が始まったのは。
アコギを再開していた相方と昨年春、初めて音合わせをし、妙に波長が合った。
それならユニット(ちょかBand)を組んでライブをしよう。
そんな調子でとんとん拍子に話が進み、今日に至っている。
本当は映画を作りたかった。
でも観る側になってしまい(文章で映画について発信しているけれど)、常に欲求不満が溜まっていた。
何かを創造して表現したい。
その思いが音楽を通して実現しつつある。
カバー曲もいいけれど、やはりオリジナル曲が一番。
自分の心の発露をめいっぱい出せるから!!
とにかくギターを弾いて歌っているのが楽しくてたまらない。
何だか青春時代に舞い戻ったような感じ。
『ウタヒメ』のメンバーとはバンド結成の動機が全く異なる。
でも、下手ながらもひとつのサウンドを構築していく、その極めて能動的な作業を繰り返し、どんどん音楽にハマッていく様子を観ると、ぼくはたまらなくうれしくなるのである。
これぞ醍醐味。
バンドの映画はそこさえきちんと描いておれば、十分だと思う。
星田良子監督は、同じようにロックバンドを題材にした『僕らのワンダフルデイズ』(2009年)を撮っている。
それはしかし、オヤジバンドの物語で、全編、予定調和的な空気が充満していて、肝心の音楽愛も希薄に思え、ぼくは好きになれなかった。
その点、『ウタヒメ』は違った。
4人の熱気が満ちあふれており、ぼくをグイグイ引きずり込んだ。
ウーマン・パワー、恐るべし!
途中、彼女たちが本音でぶつかり合い、空中分裂するところはお決まりのパターンだが、高校のチャリティーコンサートに向けてがむしゃらに突き進んでいく姿は理屈抜きに爽やかだった。
4人の輝く瞳。
わかる、わかる。
そのコンサート。
何かトラブルがあるのは承知していた。
やはりあった。
ちょっと想定外だったけれど……。
間延びしたのが残念。
あそこまで引っ張らなくてもよかったのでないか。
観る側の高まっていた気持ちが少し萎えてしまったから。
さて、『スモーク・オン・ザ・ウォーター』である。
実際に4人がプロのミュージシャンの指導を受け、猛練習して臨んだという。
その甲斐あって演奏はなかなか聴き応えがあった。
華やかなコスチュームも決まっていた。
黒木瞳のリードギターはハラハラしながら見ていたが、何とか無難にこなしていた。
ただ、ボーカルがちっともロックっぽくなかった。
声が細すぎる。
まぁ、素人バンドという設定だから、それでも構わないのだけれど。
本作を観終わったその日の夜、ちょかBandの練習があった。
知らぬ間に彼女たちから刺激を受けていたようで、ぼくはいつになく熱を帯びてギターを弾き、歌いまくれた。
それだけでもこの映画は価値があったと思っている。
(全大阪映画サークル協議会機関紙『大阪映画サークル」2012年2月15日、第1240号)

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プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。