武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

夫婦で地道な反ナチ抵抗活動~『ヒトラーへの285枚に葉書』

投稿日:

ミュンヘン大学での白バラ抵抗運動、ヒトラー暗殺未遂事件……。

第二次大戦中、ドイツ国内での反ナチ活動を題材にした映画が少なからず作られてきた。

その中で、市井の民を主人公にした本作は異色作といえよう。

© X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies / Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

首都ベルリンで暮らす職工夫婦による国家反逆事件。

2010年に原作小説が英訳され、全世界で話題を呼んだ。

その流れで英語劇になったが、やはりドイツ語で撮ってほしかった。

© X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies / Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

1940年6月、オットーとアンナの夫婦の元に出征した1人息子の戦死通知が届く。

たった1枚の無情な紙入れ……。

人間の尊厳が全く感じられない。

それがオットーの怒りを駆り立てた。

「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」

こんなメッセージを記したカードを人目のつく場所に置いた。

これを機にヒトラーを告発する内容へとエスカレート。

元々はわが子への愛情と贖罪から発した行動。

その地道な活動は約2年間も続き、市内各所に置かれたメッセージカードは285枚に達した。

© X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies / Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

組織的な抵抗運動と睨んでいたゲシュタポ(秘密警察)の担当警部(ダニエル・ブリュール)が捜査方針を転換させてからの動きが実にスリリング。

サスペンス映画としても観させる。

夫婦が住むアパートには反体制的な判事、身を隠すユダヤ人女性、筋金入りのナチス党員、密告者らが暮らしている。

まさに当時のドイツ社会の縮図だ。

© X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies / Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

英語劇なので、ブレンダン・グリーソン(アイルランド人)とエマ・トンプソン(英国人)という外国人俳優を主演に起用した。

しかし共に超演技派とあって、違和感を覚えなかった。

© X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies / Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

スイス人のヴァンサン・ペルース監督は畏敬の念を持って勇気ある夫婦の姿を映像に再現させた。

こういう実話は絶対に風化させてはならないと強く思った。

1時間43分

★★★★(見逃せない)

☆7月8日(土)シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、7且29日(土)京都シネマ

(日本経済新聞夕刊に2017年7月7日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

家族の物語『TheLady アウンサンスーチ ひき裂かれた愛』

家族の物語『TheLady アウンサンスーチ ひき裂かれた愛』

この映画、感動しました。   きょうから公開です。   オススメ!!       ☆     ☆     ☆     ☆     ☆ © 2011 EuropaCorp …

才能あふれる瀬田なつき監督の新作、『PARKS パークス』公開中

才能あふれる瀬田なつき監督の新作、『PARKS パークス』公開中

(C)2017本田プロモーションBAUS 涼風がそよぐ、そんな爽やかな映画だ。   公園そのものが主役で、そこにたおやかな音楽が絡む。   ファンタジックなポエムのような、それでい …

元教え子の結婚式、ミニ同窓会になりました~(*^-^*)

元教え子の結婚式、ミニ同窓会になりました~(*^-^*)

昨日は2010年に関西大学社会学部を卒業したうえぽん(植本くん)の結婚式。 ぼくが担当しているジャーナリスト養成プログラム(JP)の3期生です。 生真面目だった彼がええ塩梅にこなれてきていました。 奥 …

びっくりポン~! 京都新聞に大きく載りました~(^_-)-☆

びっくりポン~! 京都新聞に大きく載りました~(^_-)-☆

今朝の京都新聞朝刊に拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)の記事が掲載されました。 昨年12月4日、京都のおもちゃ映画ミュージアムでの講演時に京都新聞の映画担当記者に取材された分です。 京都にとっては「 …

大御所、山本富士子さんからもらった名刺ケースを発見!

大御所、山本富士子さんからもらった名刺ケースを発見!

今朝、嫁さんの部屋で、書棚の引き出しを整理していたら、こんなモンが出てきました❗ 「粗品 山本富士子」と書かれた熨(のし)付きの桐の小箱。 何やろ?? 興味津々、開けると、「Fujiko …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。