映画、ドラマ、音楽などのひろいジャンルで、韓流が日本でも定着してきていますね。
かつては年配の女性だけが心をときめかせていたのに、今では年齢層がグンと下がってきているようです。
火付け役となったあの『冬のソナタ』の時代は遠くになりにけり……。
さて、クールな韓国映画が17日から公開されます。
その拙稿を書きました。
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韓国のフィルム・ノワール(犯罪映画)。
言い知れぬ過去を背負い、孤愁を漂わせる主人公の翳りが際立つ。
健気な少女との絡みが独特な新鮮味を放ち、異色アクションを生んだ。
監督は長編2作目のイ・ジョンボム。
注目株だ。
「アジョシ(おじさん)」と隣室の少女ソミ(キム・セロン)から呼ばれるチシク(ウォンビン)は、ひっそりと質屋を営む独身男。
なれなれしい少女を疎ましがっていたが、次第に心を開いていく。
2人の共通点は孤独。
ソミにはクラブダンサーの母親がいるが、ちっとも構ってもらえない。
憂いを帯びた男の瞳とすがるような少女の眼差しが交錯する。
必然的に父子のように結びつく様をうまく導入部にもってきたと思う。
ただ、この部分、少し描き方が弱いような気がした。
なぜなら、赤の他人である少女のために店主が命を賭けて闘うことになるのだから。
彼らの絆をもっと具体的に示してほしかった。
孤軍奮闘、悪の組織に立ち向かうチシクの強さは尋常ではない。
猛烈なスピード感に圧倒される。
普段は静謐な佇まいだけに、視覚効果は抜群。
寡黙さも凄みを出すには十分だった。
どうしてかくも強靭なのか。
彼の履歴が浮き彫りになるにつれ、その行動の本意と共に解明される。
全体を覆う虚無的で悲観的な空気がスタイリッシュな映像と絶妙に共鳴していた。
クライマックスの銃撃戦は鮮烈だ。
韓国映画によく見られる過剰演出が目についたが、カメラアングルから俳優の立ち位置まで見事に計算し尽くされていた。
主演のウォンビン。
やや堅い印象を与えるが、抑制の効いた演技が板についていた。
若い刑事が三枚目役に徹しすぎた。
しかし娯楽作と思えば、納得できよう。
存外に渋い作品だった。
1時間59分。
★★★
☆17日から全国で公開
(日本経済新聞2011年9月9日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
クールすぎる韓流フィルム・ノワール~『アジョシ』
投稿日:2011年9月16日 更新日:
執筆者:admin